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阪本順治(映画監督)インタビュー

 ジブリ映画「崖の上のポニョ」で持ちきりの夏休み映画。その中へ深く斬り込むような社会派の問題作が8月2日に公開される。映画「闇の子供たち」。この作品でタイにおける幼児売買春や人身売買を赤裸々に描いた阪本順治監督(49)に話を聞いた。

 原作は梁石日(ヤン・ソギル)の同名小説。タイの地下社会で実際に行われている幼児売買春や人身売買の現実をリアルに描写している。
 映画化で不可避なのが幼児虐待の描写。原作では凄まじい筆致で描かれているが、これをどう映像化するのか。
 「虐待シーンをしっかり描かなければ、映画にすること自体が無意味。でも、超えてはいけない品性ってあるでしょう。現場での子役たちとの関わりとか。そうした不安を乗り越え、自信を持って作りたいと思ってました。しかも自国ではなく他国に行って作るわけだから。タイの恥部を暴くわけではないことを念頭に置かないと」
 タイで大がかりなロケも敢行した。
 「タイ側スタッフとの意志の疎通が大変でした。タイへはCMやドラマの撮影で行くことも多いし、現地にコーディネートする業者もあるんですが、さすがにこの映画では関わりがなかった。そもそもロケ現場自体が日本人観光客に一度も会わないような、大人でも行きたがらない危険な場所(笑)。そこで、コーディネートを東南アジアのニュースを配信しているプロのジャーナリスト集団に頼んだんです。彼らがタイ側スタッフにシーンの意図などを説明して。じゃないとスタッフが動けないから」
 この映画にはタイの俳優も出演している。自国の恥をさらすような作品に出演する心境とは、どのようなものか。
 「大人の俳優たちは事実を知っているし、理解もしています。でも、タイでは幼児買売春や人身売買について映画もドラマも触れることは全くない。タイでの映画はあくまでも大衆娯楽。社会的なメディアとしての意味を持たされてないので、ものすごく検閲が厳しい。だから、買う側を演じるタイの役者たちが、出演が決まっているのにどんどん逃げていく。困りました(笑)。そこで、俳優業に無縁だった人に脚本を読んでもらい、納得の上で出てもらったりして。私が脚本を書いたので現場でセリフも10分の1に減らしたり。このへんも臨機応変(笑)」
 一方、自ら売り込んできた俳優もいる。マフィア組織で売春の現場を仕切るチット役のプラパドン・スワンバーン。
 「彼はタイの大スターです、主演映画の巨大なポスターが何枚も街頭に張られているような。なのになぜ出たいのかを聞いたら“この映画にはタイ人が言いたかったことがあるから”と言ってました。確かにタイでは映画化できないテーマ。この映画もこのままではタイ国内で上映できません。当局の検閲を受けるし、下手したら上映そのものが禁止になる。タイの映画監督の皆さんが上映に向けて応援に動いているのですが、ハードルは高いですね」
 日本人俳優のキャスティングも豪華。主役の江口洋介は同世代の役者でリアリティーを醸し出せる人という条件にマッチした。
 「新聞記者として清廉潔白な感じを出せるという設定に最適でした。しかも、今までこうした役で映画に出たことがない点でも新鮮味がありましたし」
 宮崎あおいは、こうした世界を分かった上で演技できるかどうかが問題だった。
 「彼女の演技力の高さは周知ですから心配ありません。しかも彼女は自ら外国に出向き、子供の実状を見ているんです。この仕事のオファーを受けたときも“子供の人権に興味があるから”と即答でした」
 ところで梁石日が原作を書いたのは一昔前のこと。どう現状が変化しているのかを調べる必要もあった。
 「コーディネートを頼んだジャーナリスト集団から詳しい現状を聞き、施設にも足を運んで宿の中も取材できた。彼らの案内があったからこそ劇映画ながらドキュメンタリー的にできたと思ってます」
 現在ではタイ警察の取り締まりも厳しくなっているが、それだけに人身売買の潜在化が進行している。
 「タイで売買される子供は梁さんの原作だとタイの少数民族になってますが、最近ではそうじゃなく、カンボジアやベトナムなど隣国から連れて来られている。この映画で子供たちにセリフはありません。言葉が分からないまま売春宿に放り込まれているから」
 例えばプーケットの大津波やミャンマーのサイクロンなどでも、子供を保護するという名目で売買されている。それも売春目的だけではなく、格安の労働力としても。
 「ある種の災害の陰で子供が持っていかれる…それが現実なんです。買うヤツがいるから売るヤツがいる。そのあたり本末転倒にならないようにしないと」
 それは日本人とも決して無関係ではない。
 「幼児買春者は大量の観光客に紛れてタイにやって来る。そうした“特殊な客”の中に日本人が圧倒的に多いのも事実なんです。タイはエステやら何やらで日本人観光客の渡航先として一番人気。でも現地のNGOは“タイに日本人は来ないでくれ”と言ってます。この問題に日本人の側も本気で腰を上げるべきでしょう」

〈プロフィール〉
 さかもと じゅんじ 1958年10月1日生まれ、大阪府堺市出身。横浜国立大学中退。在学中から自主映画を製作する一方、石井聰互や井筒和幸、川島透の現場に美術助手や助監督として参加。1989年「どついたるねん」で監督デビュー。同作で芸術選奨文部大臣新人賞、日本映画監督協会新人賞、ブルーリボン賞最優秀作品賞などを受賞。2000年には「顔」でキネマ旬報ベストワンや2001年度日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。今年も藤原竜也主演の映画「カメレオン」が公開され話題を呼んだ。

○「闇の子供たち」ストーリー
 タイ在住の新聞記者、南部浩行(江口洋介)が若いカメラマン与田博明(妻夫木聡)の協力を得て、闇ルートで取引されている臓器の密売に関する取材を開始する。しかし、金のために子供の命が容赦なく奪われる実態のおぞましさは、想像を遙かに超えていた。一方、理想を胸にバンコクのNGO団体へ加入した音羽恵子(宮崎あおい)も、子供たちが晒(さら)されている悲惨な現実を目の当たりにしていく。

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