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映画「無頼」 井筒和幸監督インタビュー

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提供:週刊実話

――本日はよろしくお願いします。しかし、8年ぶりの映画の公開がまたこんな時になるとは…。
井筒監督(以下、井筒)「奇しくも、不思議にも…ですよね(笑)」

――来年に延期となりましたが、もともとはオリンピックイヤーにぶつけようと? 作品の中で、前回の東京五輪に触れていましたが。
井筒「メダルだけを目指す五輪なんて好きじゃない。僕は、オリンピックはどうでもいいと思ってるほうだから。もう一度、無理ばかりした虚栄と欲望の昭和を語りたいと思ったんですよ。50年間丸ごと振り返ることが、今は必要じゃないのかと。それが最大の動機ですね」

――今の時代、この映画に出てくるような“自分たちの生き方をまっとうする”という人たちがいなくなった感がありますよね。
井筒「無頼ってそういう意味やからね。はぐれ者とか愚連隊って意味もあるけど、“信を譲らない”とか、“美を曲げない”という意味もあるんですよ。いわば侠客ですよね」

――侠客、つまりアウトローであると。
井筒「いや、それが悪態であろう正義だろうが、是も非も関係ないんです。そういう意味もあるから『無頼』って昔から好きな言葉なんですよ。タイトルに使ってやろうと、20年ほど前からずっと思ってたんです」

――EXILEの松本利夫さん演じる主人公を、中村達也さん、松角洋平さん、阿部亮平さんという実力派俳優たちが支える様が素晴らしいですね。男の友情を感じさせてくれました。
井筒「主人公は幼少期にド貧乏で両親もおらず、誰をどう信じていいか分からないまま世間に放り出された。自分が信じたいもんは何か…突き詰めたら、それは仲間だった。お金ももちろん大事やけどね、生きていく仲間が欲しかった。言わばそれが裏社会の盃になるわけやね。サラリーマン社会でもどっかムラ社会やから、みんな盃結んでるよね? 最近さ、平気で盃ひっくり返すような奴、いっぱいいるでしょ? 企業でもそうじゃないですか。金のために盃を無視するような。ラサール石井の親分さんが『お前、盃ちゅうもんをどない考えとんのや!』って言うでしょ。あの怒鳴り合いは、そこを突き詰めてるんやね」

★「無頼」は格差の映画

『無頼』で描かれるのは、アウトロー社会から見た、もう一つの昭和史である。神武景気、東京五輪、日米安保、ケネディ大統領暗殺、オイルショック、三菱重工ビル爆破、田中角栄ロッキード事件、昭和天皇崩御…そんな歴史的瞬間に、ヤクザたちはどう絡み合うのかが本作の見どころだ。
井筒「コッポラが『ゴッドファーザー』を撮ったときの言葉が頭にこびりついてるんですよ。あの映画で描いているのは“アメリカの階級社会を生き抜くシシリー人ファミリーの愛の物語じゃなく、アメリカの資本主義だ”と。コッポラは質問した記者を裏切ってやろうと思って言ったんだろうけど、僕はなるほどなって思った。だから僕は、昭和の欲望の資本主義を描きたかった。是も非もない。たまたまヤクザ社会にスポットを当てただけで、むしろサラリーマンよりも分かりやすいからね」

――昭和の資本主義の陰にヤクザあり、というシーンがたくさんありました。レンタルビデオ店のシーンなんか、もう面白くて…。
井筒「海賊版の話やね。昭和の終わり頃なんて、新宿や渋谷のレンタルビデオ店は海賊版のVHSばっかりやったからね。レンタルビデオは普通に開業したら莫大な資金がいるし、薄利。だから違法な海賊版に頼らなきゃ店が開けない。資本主義そのものですよ」

――それと、ヤクザがどう絡んでいるんですか?
井筒「コピーするのに工場作っちゃう。そこにヤクザが絡んでるんですよ。映画では、自分のシマ内のレンタルビデオ店で海賊版が出てる。どこの組が絡んでやがるんだと。ちょっと店長シメてこいや、とこういうシーンだったんですよ。シマ内を守ってるのは自分らという意識で生きてるわけですから、それが彼らのシノギだし、アイデンティティーですよ」

――そうだったんですか!
井筒「昔は侠客がいっぱいいた。ヤクザじゃなくて“侠客”。彼らの行動原理は“仁義”と“盃”なんですよ。その行動原理があるからこそ、ちゃんと仕事をするんですよね。なにも博打ばかりやって、遊んでばっかりいるわけじゃない。彼らの行動ってそれなんですよ。企業と労働者の間とか、人と社会の間に入って“潤滑”する仕事なんですよ」
 本作で、冷静な視点で資本主義をとらえた井筒監督は「金を稼ぐことでどうなるか。上も見えたし、底も見えたのでは」と喝破する。

――こういった熱い作品を、令和という時代にぶつける意味とは何でしょうか。
井筒「昭和を生きた男たちの姿が、今を生き抜く反面教師としてヒントになるんじゃないかなぁ。この閉塞した薄情な時代、命懸けで生きるということはどういうことか、ということかな」

――金儲けの行きつく先に何があるかということを、再確認することは今、必要かもしれませんね。
井筒「金で何でも買えるという奴らがのさばってるけど、これは格差の映画ですよ。格差のないことはどういうことかと、みんな想像しようよと。こういうことを言うと、監督は左翼だと言われるけど、左も右もない。格差のない世界を思うのは面白いことでしょ。今だって世界を見渡すと、金持ちはコロナウイルスにかかっていないし、貧困と無縁のトランプも安倍も勝手なもんだ。一から社会を考え直したほうがいいと思うのは、そこだよね」

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井筒和幸(いづつ・かずゆき)
1952年、奈良県出身。高校生の頃から映画の自主制作を行い、1975年に『ゆけゆけマイトガイ 性春の悶々』で初監督を務める。その後も多くの映画の監督を務め、2005年『パッチギ!』では数多くの映画賞を受賞。映画監督のみならず、映画評論家としても活動している。

井筒和幸監督8年ぶりの大作映画『無頼』は12月よりK's cinemaほかにて全国順次公開予定

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