武藤さんは、俺も何度か参戦している「プロレスリングマスターズ」もやっている。2月末に開催したマスターズは大成功したんだけど、そのあとすぐに「WRESTLE―1」の休止が発表されて、4月1日に最終戦を行うことになった。
当初は、この最終戦に団体のトップである武藤さんが出場できないという話だった。同じ時期に、武藤さんがアメリカに遠征するというスケジュールがあって、そっちの契約が先に決まってしまっていたみたいでね。
それが、新型コロナウイルスの影響でアメリカの大会が中止になって、武藤選手が出られるようになった。だけど、日本でも新型コロナの影響は大きくて、その最終戦は無観客試合になってしまった。最後までバタバタした終わり方は武藤さんらしいと思ったね。
今回の経緯をみて、ファンからは「武藤は団体愛が薄い」とか「経営力がない」とか、いろいろ批判が出ているみたいだけど、武藤さんは元々そういう人間なんだよ。それがいい所でもあるし、周りの関係者もそんなことは分かっていると思う。
とはいえ、武藤さん自身はけっこう気にしてるんじゃないかな。カラッと陽気なタイプにみえるけど、けっこう繊細で神経質なところがある。「それでハゲたんだよ」って、自分でも言ってたからね(笑)。
俺は「WRESTLE―1」の内情までは分からないけど、やっぱりプロレスの団体経営というのは大変だと思うし、俺にはできないね。プロレスに対しての理想や、後進に伝えたいことはあるけど、ビジネスとしては難しいと思うんだよ。
俺が防災・救命活動の啓蒙で関わっている消防や警察といった組織は、何よりもチームワークがしっかりしてるし、お互いに信じ合って、組織として動くことが1人1人に叩き込まれている。プロレスの世界は真逆で、いかに人を裏切るか。裏切って、裏切って、その人間模様を見せるのがプロレスラーだし、これがプロレスの魅力でもある。
あと、今年2月に発売した『自叙伝 蝶野正洋 -I am CHONO-』(竹書房)を書いていて思ったんだけど、やっぱりプロレスラーという人種は、多かれ少なかれアウトローなんだよ。俺も、まともな学生生活が送れなかったタイプだしな。今は真っ当な人間も多いけど、昔は身体能力は高いけど社会からはみ出してる不良たちを囲って、競争させて、活かしていくというのがプロレス界では多かった。
まぁ、俺はとてもこんなヤツらをまとめられないから、団体経営していくなんてできないってことだよ。
武藤さんも、マスターズは続けるみたいだから、新型コロナが収束したら、またいろいろなプランが出てくるんじゃないかな。
心配なのは、マスターズに出てるプロレスラーはベテランばっかりだから、年々、体力が落ちていること。新型コロナの影響が長引くと、みんな出れなくなるかもしれない。
マスターズを楽しみにしているファンのためにも、1日でも早い新型コロナの収束を願うよ。
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蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。