「団塊世代が、後期高齢者(75歳)を迎える2025年が近づく。もちろん全員が紙おむつを使うわけではないが、今より、さらに2〜3割は増えると見ています。また、日本は少子高齢化の波にさらされ、国内の幼児用紙おむつの売り上げは年々落ちています。しかし、それをカバーするように伸びているのが『大人用紙おむつ』です」(大手生活用品メーカー関係者)
厚生労働省によれば、2019年の日本の出生数は86万人で、前年より6万人減っている。さらに国立社会保障・人口問題研究所によると、この少子化傾向が今後も続けば、年間出生数は’55年には61万人となることが予測されている。
一方、75歳以上の後期高齢者数は、’20年の約1800万人から、’55年に2400万人に増加すると推計される。
「後期高齢者の何割かが、大人用紙おむつのお世話になると予測できます。紙おむつメーカーの主力は、今や従来の幼児用紙おむつから、完全に大人用紙おむつになりつつあるのです」(同)
さらに「大人用紙おむつは、さらに伸びる要素がある」とも言う。その理由をこう明かす。
「業界では、大人用紙おむつを利用するシニア層が急増するとみて、品質アップに努めてきました。それとともに『大人用紙おむつ=介護』というイメージを一新する製品開発に力を入れ始めています。というのは、体そのものは元気いっぱいだが、高齢化とともにクシャミや強い運動、排尿後に間をおいて尿が少し出る『チョイ漏れ』現象に、約2000万人近くの人が悩んでいると言われています。負のイメージがつきまとう従来の大人用紙おむつのイメージを一新し、チョイ漏れ層へ積極的に使用してもらえる新商品開発に各社激しいシノギを削りはじめているのです」(経営アナリスト)
例えば、花王の「リリーフまるで下着」だ。
「これは超薄型素材でできた、大人用紙おむつです。ズボンの上からでも目立たず、下着感覚で紙おむつをはくことができます。色はピンクなどカラフルにして、華やかさも取り入れました。もちろん、尿が漏れたあとの臭気は完全密封です。そのため、紙おむつに負のイメージを持っていたシニア層から好評を得たのです」(経済誌記者)
大王製紙の「アテントスポーツパンツ」にも人気が集まる。
「動きのあるシーンでの使用を念頭に置いた上で、製品に求められる必要性を徹底的に調べ、開発された商品です。山登りでどうしてもトイレがない場合や、長時間の散歩、旅行時などにも重宝されています」(同)
大人用紙おむつで国内トップシェアを占めるユニ・チャームは、はくだけで体幹を支える世界初の技術を用いた紙おむつ「ライフリー歩行アシストパンツ」を開発。今年2月から販売を始め、他のメーカーと差別化を狙う。
「おなか周りに特殊なシートを配して、腹圧を高め、骨盤を安定させる仕組み。もはや、大人用紙おむつは、ただ単に尿漏れなどをカバーするだけでなく、体の弱点もフォローしてくれるなど機能性も高めているのです」(同)
メーカーの努力が実ってか大人用紙おむつのトータル販売数は、’13年に約64億枚だったのが、’17年には約78億枚となり、右肩上がりで上昇した。
そんな中、大人用紙おむつメーカーは新たな動きを見せ始めている。メーカー関係者が言う。
「今後は、国内の大人用紙おむつの販売競争はさらにエスカレートするでしょう。一方、それ以上に各メーカーが熱い視線を送る市場がアジアです。というのも、’50年で65歳以上の高齢者数が、中国は約3億6000万人、インドが約2億6000万人、インドネシアも日本の約3800万人(厚労省統計)より多い約4400万人に達する見込みです」
これらアジア市場のシェアをどう高めるかで各メーカーの将来が決まりそうだ。それだけに各メーカーはアジア市場を制すべく動く。
「例えば、中国で幼児用紙おむつ『メリーズ』が圧倒的人気を集めている花王は、今回の新型コロナ騒動で武漢に23万枚の『大人用紙おむつ』を寄贈するなど、新たな仕掛けを活発化させています」(同)
大人用紙おむつ市場の争奪戦は、今後も激化しそうだ。