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国内市場縮小… 勝者なきサバイバル競走に突入したビール各社 アサヒ・キリン・サントリー・サッポロそれぞれの焦燥

 ビール各社が危機感を募らせている。少子高齢化を反映し、ビールなどの売り上げが低迷しているのだ。
 各社が先に発表した1〜3月のビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の出荷量は、前年同期比2.7%減の8387万ケースとなり、この期間としては過去最低のワースト記録を更新。とりわけ衝撃的だったのは、全体の半分を占める主力のビールが5.7%減(3月単月は14.5%減)と大きく落ち込んだことだ。発泡酒も7.7%減。逆に価格の安さが魅力で、今やスーパーの特売定番品となっている第3のビールは3.4%増となり、過去最高の38.5%まで全体のシェアを伸ばしている。
 メーカー別の市場シェア(同じく1〜3月)はアサヒビール36.3%、キリンビール35.3%、サントリー酒類16.1%、サッポロビール11.3%の順で、業界ランキングに変化はないものの、第3のビールが最も好調だったサントリーが、やはり過去最高更新となった。(注:シェア残り1%は沖縄のオリオンビール)

 それにしても、なぜ各社が主力のビールで苦戦を強いられているのか。
 「若者や女性の嗜好が多様化し、ビールよりもカクテルやワインを飲む傾向が強まったことが大きい。ただでさえ少子高齢化が進む中、これで若者を中心にビール離れが加速すればどうなるか。だからこそ各社は対応策を迫られているのです」(証券アナリスト)

 昨年1年間のブランド別販売量ランキングでは、スーパードライ(アサヒ)がトップだったが、それでも前年比2.4%減だった。2位の一番搾り(キリン)も1.3%減、3位の黒ラベル(サッポロ)も3.6%減と落ち込んだ。唯一の例外は10.4%増を達成し、一時はビール市場で6割近い販売シェアを誇ったラガー(キリン)を抜いて4位に躍り出たザ・プレミアム・モルツ(サントリー)だ。
 とはいえ、国内のビール市場は限られている。各社が狭いパイを奪い合ったところで得られる果実は限定的だ。そのことに着目し、いち早くM&Aでの事業拡大に舵を切ったのが、皮肉にも前述したように老舗ブランドのラガーがモルツに出し抜かれたキリンである。

 キリンは2007年に協和発酵を買収、既に進出していた医薬品事業を強化した。これを機に積極果敢なM&A戦略に目覚めた同社は、サン・ミゲル(フィリピン)、ライオンネイサン(豪州)などのビール会社ばかりか、同じく豪州の乳業会社ナショナルフーズ、ブラジルのビール・清涼飲料会社スキンカリオールを買収と、次々に大胆なM&Aを展開してきた。この投資マネーは総額1兆円の大台を超えており、ブラジル投資だけで3000億円に達したときには「リスクが大きすぎる」との警戒心から株価が急落する一幕さえあった。
 「それも無理はありません。たとえばサン・ミゲルでは1300億円を投じて約49%の株式を取得したにもかかわらず、キリンの受取利益は7億円程度にすぎません。ブラジルの案件だって利益の半分以上が暖簾代償却で吹き飛ぶ始末。原材料の調達方法を見直しているのはそのためで、まだ買収が成功したとはいえないのが実情です。その反省もあって、キリンHDの三宅占二社長は今年からM&Aを休止し、獲得した海外拠点の強化にシフトしています」(大手証券マン)

 しかし、胸中穏やかでないのがライバル陣営だ。キリンの野心的な海外進出に対抗すべく、アサヒは中国の青島ビールに約600億円を出資して20%の株式を取得。次いで1200億円を投じてニュージーランドの酒類大手インディペンデント・リカーを買収し、飲料事業では昨年秋にカルピスを子会社化したばかり。2月半ばに発表した今後3カ年の中期経営計画の記者会見でグループHDの泉谷直木社長は、投資に利用できる3000億円のフリーキャッシュフローを武器に「海外でM&Aによる新たな事業構造を作っていく」ことで「スーパードライをアジアナンバー1ブランドにする」と宣言した。
 海外M&Aを推し進め、新興市場での事業展開を加速させようという点では、サントリーHDも負けていない。'08年にはニュージーランドの飲料メーカー、フルコアを700億円で買収。次いで'09年にはフランスの飲料大手オランジーナ・シュウェップスを3000億円で買収した。今年に入っても米ペプシコのベトナム邦人に200億円出資し、過半数の株式を取得するなど意欲的だ。
 そのサントリーHDの清涼飲料子会社、サントリー食品インターナショナルが先ごろ東京証券取引所に上場を申請した。市場からの調達マネーは「5000億円超。株高が続けば1兆円に迫る」(市場筋)とされ、その大枚を今後の成長が見込まれる東南アジアのM&Aに振り向けるようだ。

 海外M&Aで先行したキリンを追うアサヒ、サントリーの次なる戦略が注目される中、“1弱”と揶揄されているサッポロHDは昨年、スーパーのセブン&アイと提携し、安さを売り物にしたプライベートブランドによるビールの販売に踏み切った。名門企業のプライドをかなぐり捨てての生き残り策だ。
 「業界内から“屈辱的”と言われようとも、シェアの拡大にはめどがついた今回の策を機に、HDの上條努社長と同じ慶応出身の尾賀真城氏がサッポロビールの新社長に就いた。とはいえご両人とも、ビールの味はまだまだホロ苦いに違いありません」(サッポロOB)

 主力のビールの売り上げ低迷が続く中では、他社首脳も多かれ少なかれ、同じような苦味を感じていることだろう。

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