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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 円安は何を意味するのか

 12月5日のニューヨーク外国為替市場で、'07年7月下旬以来、対ドル為替が7年ぶりに1ドル=121円台に突入した。円安も、ここまでくると弊害が目立ってくる。
 例えば、帝国データバンクの調査によると「円安倒産」が今年1月から11月までの累計で301件となり、前年の2.7倍に達した。円安は、輸出企業にとっては同じドル建て価格で売っても為替差益が生じるためにメリットがある。しかし、中小企業にとっては輸入の原材料価格が上昇する一方で、製品価格の引き上げが難しいから経営が厳しくなってしまうのだ。
 ただ、7年ぶりの円安ということは、7年前はいまと同じ為替だったということになる。いまから7年前、'07年の日本経済は絶好調だった。輸出が14.0%も伸び、実質GDPは2.4%という高成長になっている。

 私は、国際競争力の大部分は為替で決まると考えている。例えば、産業革命で大量生産システムを確立したイギリスは、その圧倒的な国際競争力で世界の工場として君臨した。ところが、イギリスポンドが基軸通貨としての地位を確立するにつれ、世界中がポンドを欲しがったためにポンド高になった。そのことで、イギリスの工業製品の国際競争力が落ちていき、経済の没落につながっていったのだ。
 2年前に日本を襲った1ドル=70円台の超円高は、日本をイギリスの二の舞にする非常に恐ろしい事態だったのだ。ところが、2年前の円高について、京都大学名誉教授の伊東光晴氏が今年出版した『アベノミクス批判 四本の矢を折る』(岩波書店)の中で、興味深い指摘をしている。安倍内閣で生じた円安は、為替介入の結果だというのだ。

 安倍政権は、為替市場への大規模介入をしていないのだが、伊東教授によると、民主党政権時代に調達した為替介入資金を先物取引で先送りして、安倍政権になってからドル買いに使ったことが円安をもたらしたと主張しているのだ。
 ほとんどの経済学者は、日銀の異次元金融緩和で資金供給を大幅に増やしたことが、円安の原因だとしている。私もそう思っている。しかし伊東教授は、紫綬褒章を受章した偉大な経済学者だ。この主張が妄想やウソであることは、ちょっと考えにくい。

 伊東教授の主張が真実だとするならば、恐ろしいシナリオが浮かび上がる。
 為替市場への介入は日銀介入と呼ばれるが、介入の指示を出しているのは、財務省国際金融局だ。民主党政権時代に、日本が沈没するような円高が襲ってきているのに介入したふりをして実際には介入せず、安倍政権になってからドル買い介入をしたのであれば、民主党政権を倒すために財務省が焦土作戦を採ったということになる。

 2年前の超円高で日本の製造業が廃業したり、海外に移転することで、日本の製造現場は焼け野原になってしまった。だから今回の円安局面でも、簡単に輸出は増えない。おそらく海外に展開した日本の製造業が国内に戻ってくるには10年程度の時間がかかるだろう。
 だから、私はこの為替介入の問題を国会で徹底的に追及すべきだと思う。そして、もう二度と円高に戻さないように金融緩和を続けていく。それが、焼け野原となった日本経済を復活させる最重要の条件なのだ。

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