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山口敏太郎の映画評『借りぐらしのアリエッティ』(ネタバレ注意)

 ※内容に一部触れている箇所あり、映画未見の方はネタバレ注意。

 スタジオジブリが制作するアニメ作品群の特筆すべき点は、“少年少女と異界との接触”“人ではないモノたちの言い分”というモチーフにこそある。ナウシカと蟲との交流、ラピュタを探すパズーとシータ、異界の妖怪たちにとらわれる千尋、少年アシタカが遭遇する山犬と少女サン、どの作品でも無垢なる美少年、美少女たちが異界の住民である異人(まれびと)と接触することから物語が展開していき、妖怪・悪魔・異界と呼ばれた忌むべき存在や世界をクローズアップしていくことで、表の歴史や社会に消された闇の存在を浮き彫りにしていく。

 本作の『借りぐらしのアリエッティ』も、翔という病弱な少年と小人の美少女・アリエッティの遭遇から物語の幕は開く。二人が始めて会話を交わすのは、異人(まれびと)が現世に降臨する境界の一つにも数えられる「窓」である。窓という境界越しに会話する翔とアリエッティ、異界に身を置く女の子と現生から滑り落ちそうな男の子。この二人の姿は、黄泉の国における妻・イザナミと、夫・イザナギの再会のようにも見えた。食料(本作品では砂糖だが)を介して別離を告げる女の子と、それを引き止める男の子。物語のオープニングは、神代の御世から連綿と受け継がれたボーイ・ミーツ・ガールから始まるのだ。

 滅び行く種族の家に生まれながらも懸命に生きるアリエッティ、自分が生きられる可能性を放棄している翔。二人はお互いに出会うことで成長し、大人への階段を一歩昇ることに成功した。ラストシーン、川べりでアリエッティを見送る翔。二人の別離で、物語は幕を閉じる。男女を引き裂き、異界と現生とを引き裂く一本の川。この川は三途の川なのか、ミルキーウェイなのか、真相はわからない。だが、求め合う二人の男女が、現生と異界とに引き離され、別れていくという、なんともいえない切ないエンディングであり、不覚にも泣いてしまった。

 僕らが子供だった頃、ひょっとすると庭や野山でアリエッティを見たかもしれない。だが、その記憶は忘却の彼方に消え去ってしまった。『借りぐらしのアリエッティ』は、人々の優しい記憶を借りることでストーリーが完成するアニメ作品である。

(山口敏太郎)

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