ガンダムの世界は原子力と縁が深い。基本的にモビルスーツは原子力を動力源とする。ガンダムに先行するロボットの鉄腕アトムやドラえもんも原子力を動力源としていた。愛らしいドラえもんが原子力で動いていることに違和感があるが、原子力を夢のエネルギーと位置付けて原子力発電を推進した時代状況を反映したものであった。
リアリティを重視するガンダムでは原子力の恐ろしさも直視していた。モビルスーツには原子炉を搭載しているが故に破壊状況によっては核爆発が起きる。実際、『機動戦士ガンダム』の冒頭でガンダムに搭乗するアムロ・レイがザクを大破させた際に核爆発が起きた。この爆発でコロニーの外壁が損壊し、アムロの父親のテムは酸素欠乏症になる。
しかし、ガンダムの描く原子力は核爆発にとどまった。原子力の恐ろしさは爆発以上に長期に渡る放射能汚染である。これが現実の国際社会で核兵器の使用を躊躇させる要因であった。ところが、ガンダムの世界では放射能汚染の描写は乏しい。それどころか、『機動戦士Zガンダム』ではアマゾンで核兵器を爆発させるという暴挙を描いている。
原子力の問題は核爆発だけではない。原子炉の通常運転でも放射性物質の漏洩や放射性廃棄物の問題がある。大気汚染防止のためにガソリン車の代わりに電気自動車(エレカ)を交通手段とするスペースコロニーで、原子炉を動力とするモビルスーツが動き回るガンダムの世界観は、「環境に優しい原子力発電」という原発推進派が喜びそうな設定である。
これに対し、21世紀のガンダムには変化が見られた。2002年放送開始の『機動戦士ガンダムSEED』ではモビルスーツの動力源は原子力ではない。ニュートロンジャマーという装置によって原子力技術が使用不能になった世界である。
このニュートロンジャマーは核ミサイル攻撃の報復として撃ち込まれたものある。現実世界のセオリーである核攻撃には核攻撃で報復するのではなく、全ての原子力技術を使えなくしてしまうところに原子力を忌避する時代の空気を反映している。
かつて原子力は夢のエネルギーともてはやされ、放射性廃棄物も科学の進歩で将来は無害化する技術が生まれるという楽観論が支配的であった。しかし、21世紀になっても放射性廃棄物の状況は変わらない。原発推進派ですら最大の論拠は「原発がなければ電力需要を賄えない」という「仕方ない」論になっている。
『SEED』の設定は原子力に夢がなくなった時代にふさわしいが、後半に入ると原子力を夢のエネルギーとする位置付けに逆戻りしてしまう。ニュートロンジャマーを無効化するニュートロンジャマーキャンセラーが開発され、主人公らの乗るモビルスーツだけが核エンジンを搭載する。それが圧倒的な能力を発揮し、原子力技術の賛歌になってしまった。
原子力の位置付けが揺れた『SEED』に対し、次のテレビシリーズの『機動戦士ガンダム00』は自然エネルギーに転換した。『機動戦士ガンダム00』は宇宙太陽光発電が中心になった世界が舞台で、主人公らのモビルスーツの動力源は「太陽炉」という架空の機関である。ここでは原子力から完全に解放されている。
福島第一原発事故によって原子力は、これまで以上にネガティブなイメージになった。子ども向けの『機動戦士ガンダムAGE』が原子力をどのように描くのか、もしくは描かないのかに注目が集まっている。
(林田力)