ただ、国会の会期を数日間延長すれば、通常の手順を踏んで採決することが可能だったのに、なぜ与党は禁じ手まで使って会期延長を避けたのか。理由は、たった一つだ。加計学園の問題で、これ以上、野党に追及されたくなかったからだろう。
文部科学省による内部文書の追加調査で、とんでもないメールが出てきた。11月1日付で萩生田官房副長官が獣医学部新設の認可条件を見直すよう指示したとするメールが、文科省に届いていたのだ。
萩生田官房副長官は、この修正指示を否定しているが、これが仮に本当だとすると、官邸にとって大きな問題になる。
もともと国家戦略特区指定の条件は「獣医師系養成大学等のない地域」というものだったのを、「広域的に獣医師系養成大学等のない地域」に改めろ、という指示になっていたからだ。
実は、国家戦略特区による獣医学部新設については、加計学園のほかに、京都産業大学も名乗りを上げていた。
京都には獣医学部はないが、大阪府立大学には、獣医学部に相当する獣医学類がある。そこで、京産大から「京都と大阪は同じ地域ではない」と主張されることを懸念して、あえて「広域的に」という言葉を入れて京産大を排除したのだ。これは、明らかに官邸の圧力が加計学園の選定に働いたことを意味する。
民進党などが国会で追及した「総理のご意向」、「官邸の最高レベルが言っている」などと書かれた文書も存在が確認されたが、これは官邸にとって怖くない文書だ。「総理のご意向というのは、岩盤規制に穴を開けることであって、加計学園の優遇ではない」と言い逃れることができるからだ。ところが、萩生田メールについては、そうはいかない。明らかに加計学園優遇だからだ。
どうやら起きていた事態は、次のようなものだったらしい。
内閣府は、獣医学部をいくつでも作ってよいと考えていた。ところが、麻生副総理を初めとする獣医師の利権を守ろうとする政治家と文科省が手を組んで、「認可は一つだけにしてくれ」と抵抗してきた。そこで、官邸と内閣府は、「だったら加計学園だけにする」ということで折り合ったのだ。しかし、京産大と加計学園のどちらが適切か、という比較検討が行われた形跡は、一切ないのだ。
加計学園は、10年以上前から獣医学部の新設を求めて準備をしてきた。一方、京産大は昨年になって突然割り込んできた。そのため、きちんと比較検討をしていさえすれば、加計学園のほうが適切という結論を導き出すことは十分に可能だったはずだ。しかし、それをせずに「広域的」という言葉を入れ込むだけで、京産大を排除してしまったことは、官邸の明らかなミスなのだ。
高支持率にあぐらをかき、きちんと手順を踏むことを忘れたら、国民の信任を一気に失う。そんな当たり前のことが改めて分かった国会だった。