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高橋四丁目の居酒屋万歩計(1)「板蕎麦山灯香」(蕎麦、いたそばさんとうか)

 東急田園都市線、三軒茶屋駅南口Aから徒歩810歩

 三宿は地勢図上、隠れ家めいたバーや、そのような和食、洋食、中華の店が多いのだけれど、とくにお忍びではないのであればこんな蕎麦屋はいかがだろう。
 夕方の5時から翌朝の4時半まで営業しているから、使い勝手も悪くない。8人掛けの大卓もある。クールなジャズをかけながら、若いスタッフがてきぱきと働いている。ひとり客にも違和感を覚えさせないように心配りできるところなど、なかなかの連中ではないか。
 お酒も澤の鶴、黒帯、出羽桜、玉乃光、八海山と無難な品ぞろえ。蕎麦屋に入ったら、理に叶(かな)った和風ホットカクテル、蕎麦焼酎の蕎麦湯割りを、まずお願いすることにしている。
 てんぷらをそう言って、ビールに切り替えて待ち構える。国道246号線に面しているからか、入ってくるのは堂々としたお付き合いをしている男女ばかり。締めには、もり汁と胡麻だれの2種類が楽しめる、お試し蕎麦切りをどうぞ。蕎麦は、蒸篭(むしかご)ではなく板で、だからより台所的で庶民的に、パスタの茹(ゆ)で方でいうアルデンテ。つまり芯一本分の硬さが残っている状態で野太く供される。

 御膳箱の蓋(ふた)の裏に盛られた地黒のアルデンテを眺(なが)めていると、故郷岩手県の岩手郡岩手町大字一方井にある一方井蕎麦を思い出した。これを、いっかたい、と難なく読めた方は法曹界の方でしょうか。ここで、天理教一方井事件は起きました。
 驚嘆すべき一方井乾麺は、相当数の自称蕎麦っ食いに差し上げていて、いまだ一件のクレームもないという逸品です。蕎麦っ食いの方々は異口同音におっしゃいます。下手な蕎麦屋は論外として、中位の蕎麦屋で食うより、この乾麺のほうが旨いと。この蕎麦を入手するには、県庁所在地の盛岡市の不来方(こずかた)城跡公園のふもとにある観光物産店にいくしかないのが難点ではあります。
 おやおや、いけません。蕎麦屋で別の蕎麦屋の話をするなかれという、禁則を犯すところでした。これ以上、杯は重ねず、手繰(たぐ)ったらさっさと帰りましょう。
 全卓に揚げた蕎麦の実がたっぷりと盛られていて、これは無料。
 「法衣(ほふえ)こんなにやぶれて草の実」と詠んだ流浪の俳人、種田山頭火にちなんだものかどうかは聞き損ねた。

予算3000円
東京都世田谷区太子堂1-4-35

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