経済がデフレに舞い戻ろうとしており、民間の資金需要が縮小。反対側で国民が預金を増やしているため、銀行が悲鳴を上げる状況になっているわけだ。
そして、1月20日、長期金利の指標である新発10年債の利回りが一時0.195%となり、前日終値に比べて0.005%低下。取引時間中の過去最低水準を更新し、初めて0.2%台を割り込んでしまった。
しかも、5年物国債がついに「マイナス金利」となったわけだから、半端ない。短期国債はともかく、まさか5年物国債までもがマイナス金利になるとは思わなかった。
ところで、日本同様にデフレ化の危機に見舞われているユーロ圏では、1月22日、ECB(欧州中央銀行)が国債買取型の量的緩和実施を決定した。
とうとう、ECBも日本銀行同様に、金融政策としては「最後の手段」に踏み切ったわけである。
ECBの量的緩和は、今年の3月に開始される。国債の買い入れ額は月に600億ユーロのペースであり、かなり大規模なものだ。
来年9月までに、およそ1兆ユーロ(約133兆円)以上の「新たな通貨」が供給される見通しである。
ECBは、すでにECB当座預金に対してマイナス金利をかけている。この時点で、冒頭の「5年物国債のマイナス金利」と話が混じり、混乱している読者が少なくないであろうから、改めて「マイナス金利」について解説しておこう。
「5年物国債金利がマイナス」
とは、金融市場において、あまりにも国債に人気が集中した結果、額面以上の金額で国債が購入されてしまったという意味になる。
例えば、額面100億円の国債が「100.1億円」で買われてしまった、といったケースだ。
額面以上の価格で国債を購入した以上、償還期限まで金融機関が国債を保有していると、損をすることになる(これを「マイナス金利」と表現している)。
実際は、5年物国債は流動性が高く、日本銀行の買い入れもあるため、極端に民間の資金需要が低い時期(今であるが)には事実上のマイナス金利で国債が買われることがあるという話だ。別に、国債を購入した銀行側が、政府に国債金利を「支払う」わけではない。
それに対し、ECBが実施している「マイナス金利」は、
「域内・国内の銀行が、中央銀行の当座預金に準備率以上にお金を預けた場合、金利を“徴収”する」
という話であり、こちらは正真正銘のマイナス金利である。つまりは、お金を貸した方が金利を「債務者」に支払うのだ。
本来、中央銀行の当座預金の超過準備に対する金利は「ゼロ」が正しい。ところが、昨今はこの常識が通じなくなっており、ECBが「マイナス金利」を、逆に日本銀行は0.1%の金利を付けている。
理由は、
「当座預金に金利を付けないと、銀行側が日本銀行に国債を売ってくれないため」
という、何となく本末転倒に感じられる事情があるためだ。
銀行が日本銀行に国債を売ると(=量的緩和)、代金は日銀当座預金の残高を増やす形で支払われる。
当座預金の金利がゼロの場合、銀行は「金利がつく」国債を日銀に売り、「金利がつかない」当座預金で支払われることになるため、国債を売ってくれなくなる、という懸念が残る。ゆえに、日銀当座預金に0.1%の金利がついているのである。
もっとも、当座預金の金利が0.1%だろうが、ゼロだろうが、あるいはECBのようにマイナス金利であろうが、問題の本質は「銀行の貸し渋り」等ではなく、民間の資金需要の低下である。
日本とユーロ圏に共通する問題は、デフレにより民間の資金需要が乏しくなっていることなのだ。
なぜ、民間の資金需要が細っているかといえば、もちろん「十分な投資利益率」を確保できる投資先が少ないためである。
どれだけ金利が低くても、投資利益を見込めない状況で投資する経営者はいないだろうし、いたら経営者失格である。
投資利益率とは、ここではシンプルに「=利益÷投資額」と理解して欲しい。「利益」の計算の際に使用する費用には、減価償却費が含まれている。
工場などを建設する際に支払ったお金は、減価償却費として数年、数十年かけて償却されることになるのだ。
例えば、100億円の投資を実施し(償却期間10年とする)、毎年の粗利益が20億円、人件費等の費用が10億円だった場合、利益は「=粗利益20億円−減価償却費10億円−人件費等10億円」で、ゼロになってしまう。
すなわち、投資利益率はゼロだ。
当たり前だが、投資利益率がゼロである以上、銀行からの借入金の金利が0.2%だろうと、あるいはゼロであろうとも、経営者は投資を決断しない。
日銀やECBの量的緩和は、基本的には「金利の引き下げ」を目的に行われる。ところが、すでに日本やドイツ、フランスなどの長期金利は1%を切っているのだ(日独両国は0.4%を切っている)。
問題は「投資先がない」ことであり、金融の目詰まりではない。ロイターの調査によると、投資計画において最重視する点は「国内需要動向」が最も多く、非製造業では73%、製造業でも47%を占めた。
「需要が少なく、投資しても儲からないため(金利がどうであろうと)投資をしない」
当たり前すぎるほど、当たり前の話である。
政府が「国内の需要が乏しく、投資利益率が上がらないため、企業が設備投資をしない」という「現実」を認めず、「デフレ対策」について金融政策に依存している限り、我が国もユーロ圏もデフレから脱却する日は訪れないだろう。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。