現在の日本では、マスコミから「ウソ」の情報が流され続けた結果、国民の多くが、
「日本の公務員数は多すぎる!」
という誤解を抱いてしまっている。あるいは、
「日本は諸外国と比べて公務員の給料が高すぎる! 日本は公務員天国だ!」
といったウソを、固定観念のように信じ込んでいる読者も少なくないだろう。
筆者は別に公務員でも何でもないため、公務員数が多かろうが少なかろうが、あるいは公務員給与が高かろうが安かろうが、個人的にはどうでもいい。とはいえ、ウソはウソとして訂正しておかなければならない。
日本の公務員数(一般政府雇用者)が全労働人口に占める割合は、わずかに5.3%(OECD最新データ。以下同)である。この数値は、OECD諸国で最も小さい。すなわち、日本はOECD諸国の中で、最も「公務員数が少ない」国なのだ。
などと書くと、即座にデータも調べようとしない「知ったかさん」が、
「特殊法人や独立行政法人の職員を入れれば、日本の公務員数は多い!」
などと言い出すわけだ。残念ながら、「一般政府雇用者」には、特殊法人や独立行政法人など政府系企業の職員、自衛隊員、国立大学の教授などが「全て」含まれている。日本の公務員数は、対労働人口比で見るとOECD諸国の中で最も少ない。これが厳然たる事実だ。
さらに、公務員の給与である一般政府雇用者報酬対GDP比率も、日本はOECDで最低だ。国民の所得(GDP)との比較でみると、日本は公務員給与が「最小」の国なのである。そもそも公務員数が少ないわけだから、公務員給与の対GDP比も小さくなって当たり前なのだが。
図(本誌参照)にある日本とスウェーデンを線で結んで欲しい。大雑把に書くと、日本-スウェーデン・ラインの右下にある国(ポルトガル、韓国)は、公務員数の割に公務員給与がGDPに占める割合が大きいということになる(=公務員給与が高い)。
逆に、日本-スウェーデン・ラインの左上に来る国(ノルウェー)は、公務員数に比べて公務員給与が小さいわけだ。アメリカは、ほぼ日本-スウェーデン・ライン上に位置している。
無論、「マクロ」で見た話であって、たとえば地方自治体によっては、地方公務員の給与が民間に比べて高くなっている地域もある。
とはいえ、公務員の給与が民間と比べて高くなったのは、別に公務員給与が伸びたためではない。長年続くデフレの影響で、民間の給与が下がってしまったことが主因なのである。
ちなみに、バブル期には公務員給与と民間給与の関係は現在の真逆になっていた。
すなわち、公務員給与が民間に比べて低すぎ、当時は公務員の方が、
「自分たちは国家のために働いているのに、なんであいつら(民間)の給与はあんなに高いんだ…」
といった、現在とは逆のルサンチマン(強者に対して弱い者が持つ憤りや怨恨、憎悪、非難の感情)を抱いていたのである。
最近の日本では、公務員ではなく民間側がルサンチマンを抱き、それが「政治」に使われるケースが少なくなく、大変危惧している。わかりやすく書くと、政治家が国民に国内の「誰か」への敵愾心を植え付け、「誰か」の批判を展開することで、有権者からの得票を増やそうとするのだ。
特に、税金から給与が支払われている公務員は反論がしにくいため、敵愾心を煽る政治家から格好のターゲットにされてしまった。
彼ら政治家が「公務員批判」を自らの票へ結び付けようとしたからこそ、我が国で「公務員数は多い」「公務員給与は高すぎる」といった虚偽情報が広まってしまったのだろう。
結果的に、我が国では実際に公務員給与引き下げが実施され、デフレを「促進」した。
なにしろ、公務員だろうが誰だろうが、国民がおカネを消費もしくは投資として使ってはじめて、デフレギャップが埋まり、日本経済はデフレ脱却へと近づくのだ。政策により公務員給与が引き下げられ、彼らの消費や投資が減ると、その分だけ日本のデフレギャップは拡大してしまう。すなわち、デフレ深刻化だ。
デフレが深刻化すると、公務員以外の日本国民の所得水準までもが小さくなっていく。いわば、日本国民総貧困化である。
くどいようだが、筆者は公務員ではないため、公務員給与が高かろうが低かろうがどうでもいい。とはいえ、国民のルサンチマン丸出しの「公務員給与を削れ!」という声に押され、政治家が公務員給与を引き下げ、公務員の消費が減少していく状況は勘弁してほしい。
なぜなら、給与を引き下げられた公務員が「買うのをやめた」商品は、筆者の書籍かも知れないのだ。
国民経済が繋がっている以上、デフレ期に他人の足を引っ張ると、自分の足も引っ張られてしまう。この当たり前の事実を、日本国民はそろそろ認識した方が良い。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。