1月末にはNEC子会社のインターネットプロバイダーであるNECビッグローブを買収した。次いで2月に入ると、ソニーが『VAIO』ブランドで生産してきたパソコン事業を買収するなど、ここへ来て存在感を発揮しているのだ。
NEC、ソニーとも3月末までに正式契約を結ぶ。金額は非公表だが、複数の関係者はビッグローブが約700億円、ソニーのVAIOが約500億円と口をそろえる。締めて1200億円にも及ぶ巨額な買い物である。いくらアベノミクスで経済再生のメドがついたとはいえ、このご時世に大枚を投じて矢継ぎ早の買収に打って出るのは相当のリスクを伴う。だからこそ「どんな嗅覚を働かせて売り物に飛びついたのか。そして今後いかなるマネー錬金術を発揮するか」と金融筋が注視しているのだ。
簡単に説明すると、日本産業パートナーズは、みずほ証券などの出資で2002年11月に設立されたファンド会社。再編で企業本体からはじき出された事業の再生支援が最大の目的で、これまでにオリンパスの情報通信子会社や日本ビクターのモーター事業部、協和発酵キリンの化学品子会社を買収するなど、投資案件は計15件。累計投資額は約1700億円とされる。それだけに今回の買収額は嫌でも突出する。
実はビッグローブの買収自体が「常識的には考えられない金額だった」と金融関係者は打ち明ける。
NECが昨年秋、ビッグローブの売却を表明すると10社超の会社が名乗り出た。入札を経て、最終的には伊藤忠商事、住友グループの投資ファンド(ライジング・ジャパン・エクイティ)、日本産業パートナーズの3社に絞られた。金融関係者は驚きを隠さない。
「入札額は公表されていません。しかし、それでも伊藤忠が約400億円、住友系ファンドが450億円、日本産業パートナーズが700億円を提示したとの情報が漏れてきた。NECはビッグローブの収益構造から、せいぜい500億円が上限と読んでいたフシがあり、日本産業パートナーズの高値入札額に仰天したようです。裏を返せば何としてでもビッグローブが欲しかったわけで、今なお『果たしてソロバン勘定が合うのか』といぶかる声しきりです」
再生ファンドである以上、日本産業パートナーズがプロバイダー事業を直営する訳がなく、いずれ売却して投資マネーを回収するに決まっている。とはいえ、もくろみ通りに運ぶ保証はなく、市場には「金持ちの中国企業に高値で売却できれば御の字。NECがプロバイダーの将来性に見切りをつけたように、下手すると買い手が見つからず心中しかねない」との悲観的な見方さえくすぶっている。
ソニーから買収するパソコン事業また然り。対外的にはソニーが5%、残りを日本産業パートナーズ側が出資して新会社を設立し、この会社がソニーのパソコン事業を引き継ぐことになっている。だが、繰り返せば再生ファンドに事業会社のまっとうな経営を期待するのはとても無理な話だ。
従って新会社のかじ取りは、巨額の赤字を垂れ流し、米格付け会社のムーディーズから“ジャンク債”の烙印を押されて凋落をアピールするソニーに任せざるを得ない。ましてパソコンは市場拡大とともに中国や台湾企業が台頭。価格競争の激化に伴い、ついに事実上の「ギブアップ宣言」を余儀なくされた分野である。ソニーが国内で唯一パソコンを生産している長野県安曇野市の長野テクノロジーサイトが今後の拠点になるが、要はソニーの事業部隊に丸投げということ。表紙を変えただけでパソコン事業が再生できるかとなると疑問符がつく。
そのソニーは2月6日、パソコン事業の売却と同時にテレビ事業の分社化などのリストラ策を発表。記者会見で平井一夫社長は「苦渋の決断」と強調したが、市場関係者は「遅きに失した」と冷ややかだった。“技術のソニー”を象徴するテレビ事業は7月に分社して子会社にする方針に言及、「現時点では」と前置きして売却については否定した。
ところが、ソニーOBは「それがどうも臭い」と指摘する。
「彼は具体的な社名は挙げなかったものの、複数のオファーがあったことは認めている。これで日本産業パートナーズが、パソコンに加えてテレビ事業の大型商談を持ちかけていたとすれば、話は一気にキナ臭くなる。ソニーの次の一手から目が離せません」
事業再生の嗅覚に長けた日本産業パートナーズが、満身創痍のソニーに今後どうすり寄るか。ビッグローブのNECからは、過去にレーザー加工部門を買収した前例もあるだけに要注目である。