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医薬業界のパンドラの箱 ノバルティス爆弾炸裂に怯える面々

 日本法人の社員は患者よりも、先生方を優先しがちである。新たな問題が出てきても、もう驚かない−−。
 大手製薬会社、ノバルティスファーマは4月3日、二之宮義泰社長ら日本法人トップを更迭し、同日付でドイツやアイルランド法人などの社長を歴任したダーク・コッシャ氏の社長就任を発表した。その会見場にスイス本社から駆け付けたデビッド・エプスタイン社長は、医薬スキャンダルに揺れる日本法人の“病根”をそう指摘し、謝罪した。
 社長発言の前段は目配りを怠ったことを棚に上げ、自らに都合がいいカルチャーショックのアピールとも取れるが、後段は「極めて意味シン」と捜査関係者は苦笑する。

 今年1月9日、厚生労働省は薬事法違反(誇大広告の禁止)で、ノバルティスの日本法人を東京地検に告発した。同社の高血圧治療薬『ディオバン』は、東京慈恵会医科大学などでの臨床試験に同社の社員が身分を隠したまま深く関与。論文に掲載された試験データも製薬会社に都合よく改ざんされ、これを武器にノバルティスが販売促進を加速させていったのだから罪作りだ。そして厚労省の告発を受け、東京地検特捜部は2月19日、同社を家宅捜索した。事件の炸裂は「早ければ5月の連休明け」(同・関係者)と囁かれている。
 それを見据えたかのようなトップ交代に続く本社の社長発言は、「日本法人を野放しにしてきた結果、もっと衝撃が大きい事件に発展するかもしれない」(同)とも受け取れるのだ。
 「実をいうと捜査当局は当初、贈収賄での立件を考えたフシがある。これならばノバルティスだけでなく大学もターゲットになる。しかし東大、千葉大、京都府立医大などの国公立大学ならばともかく、改ざんデータ論文にドップリ関与していた慈恵医大などは、民間の私学ゆえ立件できない。そこで前代未聞ともいうべき誇大広告での立件に切り替えた。突破口さえ開けば問題がゾロゾロ出てくるとの読みがあったはずです」(検察OB)

 果たせるかな、同社には新たな問題が浮上している。白血病治療薬『タシグナ』の臨床研究を巡る東大医学部附属病院・血液腫瘍内科とのズブズブの関係だ。
 東大病院が3月14日に記者会見で明らかにしたところによると、製薬会社の助けを受けない「医師主導臨床研究」にもかかわらず、患者の性別や生年月日、イニシャル、副作用などの個人情報が1年近くにわたってノバルティスに流出していたという。個人が特定できる患者IDが第三者に漏洩すること自体が個人情報保護法に抵触する可能性が強く、「絶対、あってはならないこと」(門脇孝・同病院長)である。
 ところがノバルティスの社員は臨床研究に際し、患者宛ての説明文書やアンケートの回収などにも関与していた。それどころかノバルティスの社外調査委員会は4月2日、即ち社長更迭の前日に「製薬会社丸抱えの研究。(東大病院の)医師も各種サービスを期待し、受け入れていた」と斬って捨てた。東大病院の医師は“みなし公務員”つまり収賄側になりうる立場であり、もし不明朗な金銭授受の裏付けが得られれば、東京地検特捜部には「待っていました」と映る。

 スイス本社の社長が漏らした「新たな問題」は他にもある。ディオバンの国内特許は今年で切れる。それを待って同じ成分のジェネリック医薬品が実に34社から登場する。先行の利を生かして“商権”を死守しようにも、同社に対するイメージ悪化から「多くの病院が後発メーカーへ切り替え、誰も振り向かなくなる恐れが強い」(業界関係者)のだ。
 加えて厚労省が刑事告発を検討していた昨年暮れ、メディアの取材攻勢が始まると社員が資料をシュレッダーにかけ、電子ファイルを削除するなどの証拠隠滅を図った。これ自体が捜査当局によって犯罪として立件されかねない。揚げ句にメディア対応の心得を記したメールが「一部メディアや捜査機関に流れた」(情報筋)という笑うに笑えない話もある。
 「新聞、テレビは事件の炸裂に向け、カウントダウンが始まったかのように報じていますが、全てのメディアがそうだとは限りません。ノバルティスは『日経メディカル』など医学専門誌でディオバンの効能を盛んに宣伝していた。ノバルティスの“媚薬”効果というべきか、そのたいこ持ちを務めた学者先生も少なくない。これで事件が芋ズル式に拡大すれば彼らは無傷で済むわけがなく、当然ながら高い代償を払わざるを得なくなる。自業自得とはこのことです」(経済記者)

 いま、STAP細胞の真贋を巡る小保方晴子女史が“渦中の人”になっている。その嵐が過ぎ去った後、ノバルティスが“お騒がせ戦線”の堂々たる主役に躍り出るのは間違いない。

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