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金正恩暴発の恐怖 北朝鮮でジワジワ効き始めた経済制裁

 北朝鮮・金正恩党委員長の統治資金を管理する部署『39号室』の元幹部で、2014年に韓国に亡命した李正浩氏が10月16日にニューヨーク市内で講演し、国連安保理の制裁について「中国などが抜け駆けで貿易を続けた過去の制裁とは次元が異なる」と証言した。
 「脱北者の証言は庇護国へのリップサービスもあるので割り引いて聞く必要もありますが、先の安保理の制裁決議案が、これまでで最も厳しいものだったことは確かでしょう。実際のところは“体制崩壊”で難民の発生を恐れる中国やロシアと妥協したことで、制裁にはいくつもの抜け穴が残されましたが、これも徐々に埋められつつあります。石炭や鉄鉱石、海産物などの輸出が禁止されたことで、せっかく国の配給に頼らず収入を得る道を得た人々が職を失い、徐々に景気が悪化していくでしょうからね」(北朝鮮ウオッチャー)

 経済制裁の打撃は多方面に現れている。国際社会は北朝鮮との外交関係の縮小に動き出した。スペイン、イタリア、メキシコ、ペルー、クウェートが北朝鮮大使を追放した他、北朝鮮との貿易関係を停止した国や世界50数カ国に派遣されている出稼ぎ労働者の労働許可の更新を認めなくなった国もある。北朝鮮は出稼ぎ労働者の賃金の一部をピンハネしており、こちらからの“収入”も減るはずだ。
 また米国主導の金融制裁によって、北朝鮮と取引のあるすべての外国金融機関の金融システムはアクセスを遮断し、これまで頼みとしてきた中国の大手銀行も取引を停止した。
 「本来は政治的に中立であるはずのスポーツ分野でも制裁は広がっています。11月8日にサッカーのU-19北朝鮮代表は、豪州とアジア選手権予選の試合を行う予定でしたが、豪州政府は核・ミサイル開発を理由に北朝鮮代表チームの入国拒否を決めています」(国際ジャーナリスト)

 その他にも、一時期は北朝鮮の外貨稼ぎの有力手段だった“絵画ビジネス”も、今や売れ行きがサッパリだという。
 「描かれるのは白頭山や金剛山、九月山、七宝山など山の風景画ばかり。加えて外貨獲得に焦るあまり、大量に生産したことでどれも個性が失われ、愛好家に飽きられてしまったのが不振の原因です」(前出・ウオッチャー)

 得意の武器輸出も思うようにはかどらない。
 「北朝鮮はエジプトやイラン、ミャンマー、キューバ、シリア、エリトリアの他、2つのテロ組織へ、旧式の安価な武器の密輸で外貨を得てきましたが、商売相手だったはずのエジプト外務省までが10月2日夜、スエズ運河を航行しようとしていたカンボジア船籍の可能性が高い不審な船舶から北朝鮮製とみられるロケット弾を押収し、廃棄したと発表しています」(前出・ジャーナリスト)

 韓国で昨年、北朝鮮により軍内部ネットワークがハッキングされ、正恩委員長暗殺計画を含む米韓軍事機密が多数流出した事案があった。このサイバー攻撃こそが、北が当てにする最終兵器といわれている。
 「米国のサイバーセキュリティー企業『レコードディド・フューチャー』が作成した報告書は、北朝鮮のハッカーが、5月17日から7月3日にビットコインを使って、核・ミサイル開発の資金調達を試みたのではないかとの警告を発しています。ビットコインは通常の通貨と違い、各国の政府、中央銀行の監督を受けず、銀行で取引されることもありません。かつ匿名で銀行やクレジットカード会社などとは完全に独立して取引されるため、資金の流れを追跡することが困難です。このため金融・経済封鎖を受けている北朝鮮にとって唯一の資金獲得手段となり得るのです」(経済紙記者)

 北朝鮮問題のキーマンが中国であることは周知の事実だが、膠着状態にある核・ミサイル問題を好転させるためには、先の中国共産党大会で独裁体制を確立した習近平国家主席が経済的、政治的、そして軍事的に“北朝鮮を見限る”ことが最大ポイントとなる。
 「3700キロを射程内にする『火星12』(中距離弾道ミサイル)は米領グアムを狙えますが、ぐるりと向きを変えると全中国が射程に入ったことになります。つまり北朝鮮は中国にとっても国家安全保障の根幹を揺るがす脅威となってしまったわけです。また北朝鮮が小型核に成功した場合、ウイグル自治区の過激派へ売却しかねません。これは中国にとって大きな懸念材料です。習主席は、かねて『われわれは朝鮮半島の非核化(安定)を望んでいるのであって、政権の安定を望んでいるのではない』と言い続けてきました。つまり金正恩体制をつぶしてもいいということです。この点ではトランプ大統領とも一致しています。11月5日からのトランプ大統領の日韓中訪問で『米国はミサイルの集中攻撃で陸上をきれいにしてやるから、中国人民解放軍は陸上戦闘を好きにやっていい』との合意を見るかもしれません」(中国ウオッチャー)

 現在、中朝国境地帯はピリピリとした緊張に包まれている。国境の川、鴨緑江に沿って鉄条網が果てしなく設置され、脱北者や密輸が多い最上流の地域では高圧電流を流し始めた場所もある。中国の変化を肌で感じ始めた人たちの脱北を防ぐためだ。
 「北朝鮮富裕層の一部は、すでに中国の丹東や瀋陽への脱出を始めたという情報もあります。自国のレジームチェンジを予見しているのでしょう」(同)

 正恩委員長がホールドアップする場面が、ジワジワと現実味を帯びてきた。

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