そもそも、法人税減税とはいかなる目的で実施されるべきなのか。
企業は売上から各種の費用を支払い、最後に残った税引き前利益から法人税を徴収される。いわば、法人税は企業の税引き前利益という「所得」から政府への分配金だ。税金とは、国民が稼いだ所得から政府への分配という意味を持つ。
政府に法人税を徴収された企業には、最終所得である「純利益」が残る。法人税減税とは、企業の最終所得(純利益)を「増やしてあげよう」という政策なのだ。法人税減税で純利益が増えれば、確かに企業は喜ぶだろう。
だが、実のところ長引くデフレにより、日本の法人は7割が法人税を支払っていない。すなわち、赤字なのだ。財務省によると、2011年度では全法人約257万社のうち、7割超の約185万9000社が赤字を計上し、法人税を納めていなかった。法人税を「全体的に」減税したところで、企業の3割弱しか恩恵を受けないのである。
このデフレ下において、黒字を出している企業は「勝ち組」だ。別に、黒字企業を批判したいわけでは全くないが、法人税減税は「デフレ期の勝ち組」に恩恵を与える格差拡大策になってしまうのだ。
さらに、こちらの方が問題なのだが、法人税減税で企業の純利益を拡大したとして、それは「何に」使われるのだろうか。法人税減税で企業が「儲かった」おカネが、果たしてどこに向かうのか、これが大問題なのだ。
企業の純利益が「向かう先」は、主に3つある。
(1)設備投資(国内への設備投資、対外直接投資)
(2)内部留保(銀行預金など)
(3)配当金(国内の投資家への配当金、海外の投資家への配当金)
デフレが継続している以上、法人税減税で純利益が増えたとき、日本企業は(2)の内部留保に回すところが多いだろう。とはいえ、もちろん(3)、特に「海外の投資家への配当金」におカネを回す企業も出てくるわけだ。そうなると、
「外国人投資家への所得分配(配当金)を増やすために、法人税減税を!」
という話になってしまい、まさにグローバル経済の優等生たる韓国パターンだ。
韓国はサムスン電子、現代自動車などの株主の半分前後が外国人で、李明博政権下で大企業が法人税の優遇措置を受けた。
政府が法人税を引き下げる目的は、設備投資を増やし、「国内」に雇用を創出して欲しいためである。とはいえ、デフレが継続している日本において、単純に法人税を引き下げたところで、設備投資が増えるだろうか。内部留保が圧倒的になるだろう。
企業の財産である内部留保が増えたところで、国民経済の成長には役に立たない。
加えて、企業の純利益が拡大し、設備投資に乗り出したとしても、(1)の「対外直接投資」を増やされてしまっては、やはり日本国民の所得は増えない。対外直接投資とは、日本企業の外国における工場建設や支店開設などになる。
我が国の国内の設備投資を示す「民間企業設備」は、デフレが深刻化した'98年以降、80兆円と60兆円の間を行ったり来たりし、全く増えていない。同じ期間、対外直接投資(流出)は5兆円から、ピークの'08年には20兆円規模へと激増した。
繰り返しになるが、日本企業がどれだけ対外直接投資を増やしたところで、日本国内で雇用が創出されるわけではない。
すなわち、日本国民の所得はほとんど増えない。
グローバリズム、特に「資本移動の自由」が確立した現代は、企業はどこの国に投資をしても構わない。「日本」政府に法人税を引き下げてもらったところで、日本企業が国内で設備投資を拡大する義務はない。
本来、法人税引き下げとは国内の資本蓄積が不十分な発展途上国、新興経済諸国などが、「低い法人税」を武器に外国から企業の投資を呼び込む手法なのだ。
資本移動の自由化が進んだ'90年代以降、「法人税を引き下げ、外国企業の投資を呼び込み、経済成長をする」というスタイルが、新興経済諸国などで流行った(アイルランドが典型だ)。
とはいえ、別に現在の日本は資本に不自由しているわけではない。それどころか、国内の余裕がある企業までもが自国には投資をせず、内部留保で貯めこむか、あるいは対外直接投資を増やしている。要するに、日本国民の雇用が創出されていない。
日本企業が国内の設備投資を増やさない(いまだにマイナスが続いている)理由は、もちろんデフレで投資をしても儲からないためだ。
デフレで儲からず、国民の人件費が相対的に高い日本に、少々法人税を引き下げたところで外資が投資をするはずがない。というよりも、それ以前に我が国は資本の蓄積が十分で、外資など不要なのである。
というわけで、現在の日本にとって、法人税の無条件の引き下げは愚策中の愚策である。
もちろん「設備投資減税」ならば問題ない。企業が「国内」に設備投資をした場合のみ、法人税を下げるというのであれば、国民経済の成長に直接的に貢献する(安倍政権の景気対策には、一応、設備投資減税が含まれている)。
問題の本質を「国民の所得が増えるか、否か」に置けば、各種の経済政策の適切性を明確に判断できるわけである。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。