そんな中、戦後、日本経済の発展を支えた製造業、中でも超優良企業だったソニーが無配に転落したことで、「もうソニーは終わった」という評価さえされている。
ただし、今回の決算見通しの変更は、ソニーのスマホが中国の低価格攻勢に敗れ、スマホ事業を縮小するための減損処理をすることに伴うものだ。実際、ソニーは、モバイル・プロダクツ&コミュニケーション事業に従事する7100人の従業員のうち、15%にあたる1000人を削減するということも同時に発表している。
ただ、確かに低価格スマホでは敗れたが、ソニーの経営が大きく悪化したというわけではない。例えば、7兆8000億円という今期の売上高見通しは、変更していない。しかも、その売上高は、わずかだが、前年度を上回っているのだ。
また、今期2300億円もの赤字というが、3期前は4567億円の赤字だった。それに比べれば、今回の赤字は、まだましともいえるのだ。
リーマン・ショック後、大手家電メーカーは、事業の中心を法人向け、官公需向けにシフトすることで経営を守ってきた。その中で、唯一ソニーだけは、消費者向け商品を中心に頑張ってきた。私は、そのことが評価されソニーが復活する日が、そう遠くない時期にくると思っている。
理由は、三つある。一つは円安の進行だ。ソニーは、消費者向け事業を続けたからこそ、一昨年までの超円高の最大の被害者となった。しかし、その円高も終結しつつあり、近い将来に1ドル=120円台を目指すと見込むエコノミストも増えてきた。その程度の為替が続けば、ソニーのコスト面での国際競争力は復活する。
二つ目は、ソニーが高い技術を維持しているということだ。これまで多くの技術者が流出したのは事実だが、それでもソニーは、圧倒的高性能の製品を作り続けている。
例えば、RX1というデジカメの画像は息を呑むほど美しいし、ZX1というハイレゾ・ウォークマンは、歌手の息遣いまで聞かせてくれる。通信機能を強化したプレステ4は、ゲーム機を超えてコミュニケーションツールとしての無限の可能性を示している。このように、実はソニー製品はとても元気なのだ。
そして第三の理由は、金融とエンターテインメントがソニーを支えるということだ。ソニー生命やソニー銀行といった金融事業や、コロンビア映画を買収したエンターテインメント事業が今、しっかりと黒字を稼ぎ出している。つまり先行投資が実を結んでいるわけで、これらの収益がエレクトロニクス部門の赤字を埋める経営構造になっているのだ。
こうした恵まれた環境の中で、ソニーに唯一欠けているのは、マーケティングの力だと思う。もしソニーにスティーブ・ジョブズなみの売り込みの天才が生まれれば、私はソニーの業績は、V字回復すると思う。伝説を創るための経営基盤は、すでに十分整っているからだ。