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幽霊を創造する人間の蛮行

 この夏も各地の心霊スポットと呼ばれる場所では、怖いもの見たさの人々で賑わったことだろう。運良く(?)怖い体験ができたとしても、それは、もっと怖ろしい生きた人間の所業があってのことかも知れない。

 造船業が盛んな、ウクライナの港湾都市オデッサ。この黒海北岸のオデッサ湾では1910年代、幽霊が出るという噂が広まっていた。よくある幽霊話と特異だったのは、港周辺ではなく海底に出るという点だった。潜水夫が海底で作業していると、幽霊が団体で列をなして迫ってくると言うのだ。
 1917年、オデッサ湾に入港したイギリス駆逐艦の錨が海底深く埋もれ、切れてしまった。駆逐艦の乗員達が手をこまねいていると、潜水夫のマラディが錨を引き上げてくれると言う。海底の柔らかい泥に足をとられ、困難を極める作業になることはもちろん、幽霊の噂も承知の上だ。海底で重い鉛の靴を履くマラディの足は、容赦なく沈んでいく。それに逆らい、捜索を続けていると視界が何かを捉えた。錨ではなく人だった。普段着のままの男が何人も立っている。異様に白い顔をした、その男達は、二列に並んで近づいてきた。恐れをなしたマラディは、慌てて合図を送り船に引き上げてもらうと、恐怖のあまり気を失い入院した。

 しばらくして退院したマラディは、故郷アメリカへ帰り、少しずつ恐怖を癒していき、30年の時が流れた。ある日、若い頃にオデッサで勤務経験のある、ロシア人老医師と知り合った。その病院もまた、幽霊の噂があった。マラディは、海底の幽霊と何か関係があるように思い、自らの体験を話した。そして医師から聞かされた話に、改めて戦慄を覚えた。
 当時のロシアでは、ロシア共産党と帝政ロシア派が激しい抗争を繰り返していた。ロシア共産党は帝政ロシア派の捕虜を二人ずつ鎖で繋ぐと次々に射殺し、そのままオデッサ湾に投げ込んでいった。オデッサ湾沿いに建てられた化学工場の廃液は、そのまま垂れ流しにされ海底に沈殿していた。それが防腐剤となったうえに、酸素が乏しく微生物が存在し難いオデッサ湾の特殊性が加わり、死体を腐らせずに生前の姿を留めさせていた。
 若きマラディが見たものは幽霊ではなく、生きた人間の蛮行による産物だったのだ。

七海かりん(山口敏太郎事務所)

山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou/

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