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奈良の神社話その十五 熱湯が暴露する嘘と真実──高市郡明日香村・甘樫坐(あまかすにます)神社

 古代の正邪判定法のひとつ、盟神探湯(くかたち)。延喜式内社・甘樫坐神社ではこの一種の神判儀式を再現し、今に伝えている。

 盟神探湯の記述は『古事記』『日本書紀』の允恭(いんぎょう)朝にみえる。人々がみんなそれぞれ「自分は帝皇や異(あや)しくして天降った神の裔(すえ)だ」と主張しているので、盟神探湯をしてその正否を判定すると詔(みことのり)した。こうして混乱していた氏姓の秩序を正したというのだ。

 方法は簡単。神に宣誓して釜で沸かした熱湯に手を入れ、正しければ手はただれないとする。先の詔では「味橿丘(うまかしのおか)に据えられた探湯瓮(くかへ)の熱湯により真実でない者はみな傷いた」ので以降、氏姓は自然に定まり、偽る者はなかったという。

 他にも煮沸した泥を手でかき回させたり、真っ赤に焼いた斧を手のひらに押し付けたりといった方法もあったとか。いずれにしても無事で済む場面があるとは思えないのだが、五人の天皇に仕えたとされる伝説的廷臣・武内宿禰(たけのうちのすくね)は盟神探湯で潔白を証明し、見事ピンチを脱している。

 先に出た味橿丘は飛鳥川に沿ってなだらかに続く甘橿丘に比定される。展望台から眺める大和三山の眺めは絶景だ。この裾野に鎮座するのが甘樫坐神社。祭神は諸説あるが八十禍津日神(やそまがつひのかみ)、大禍津日神、神直毘神(かむなおびのかみ)、大直毘神の四座が知られる。禍(邪)とそれを正す神である。

 さて、境内には約3×1.5メートルの板石が立つ。明日香村にいくつか存在する「立石」の一つで用途は不明。4月の第一日曜日、この謎の立石の前に釜が据えられ、古式ゆかしく盟神探湯の神事が再現される。

(写真「拝殿横に屹立する立石」)
神社ライター 宮家美樹

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