これまで日本政府は、高度な専門能力を持つ者を例外として、日本人と競合する分野の外国人労働者を受け入れない方針を採ってきた。しかし、安倍政権は労働力人口減による経済収縮を何よりも恐れており、6月に閣議決定した「日本再興戦略」の改訂版の中でも、「外国人材の活用」を打ち出している。
「多様な価値観や経験、技術を持った海外からの人材がもっと日本でその能力を発揮してもらいやすくすることが重要である。当面の対応策として、管理監督体制の強化を前提に技能実習制度を拡充することとしたほか、建設業及び造船業に従事する技能者の就労を円滑化するための緊急措置を整備することとした」
このように、一見、高度な外国人材を受け入れようとしているようにもみえるが、その実態が一般労働力の受け入れであることは、建設業や造船業の技能者を受け入れようとしていることからも明らかだろう。
一般労働力としての外国人労働者受け入れは、即座に雇用企業に現れるメリットと、時間をおいて国民全体に降りかかるというデメリットという大きな特徴を持っている。
労働条件が悪くて人手が集まらない国内企業は、外国人労働者が雇えるようになれば大きなメリットを受ける。しかし、外国人労働者には大きな財政コストがかかる。第一は、子弟の教育費だ。日本語がしゃべれない外国人の子供に対する教育コストは、日本人の子供と比べて数倍だ。
第二は失業対策費。外国人労働者は景気の調整弁になりやすい。直近の国勢調査でも、外国人の失業率は8.4%と、日本人の2倍になっている。失業給付の負担は、雇用保険料を支払っている国民全体に降りかかってくる。第三は住宅コストだ。外国人労働者がリストラされて住処を失えば、公的住宅を手当せざるを得ないケースが増えるだろう。
ところが、低所得の外国人は、所得税や住民税をほとんど納めない。結局、財政が大赤字になるのだ。
年金も同じだ。最初のうちこそ、外国人労働者の支払う保険料で年金財政は潤うが、彼らが年金受給者の側に回ると、年金財政は大きな赤字になる。公的年金には所得再分配の機能があり、低所得者は支払った保険料よりずっと大きな年金給付を受けられる設計になっているからだ。
高度経済成長期にドイツはトルコから、フランスは北アフリカから大量の外国人労働者を受け入れた。しかし、高度成長が終わるとともに大量の外国人労働者が余剰となった。それでも外国人労働者の帰国は容易には進まず、結局、社会に大きな爆弾を抱え込むことになってしまったのだ。
今年、フランスの欧州議会議員選挙で、移民排斥を掲げるルペン党首の国民戦線が、25%の得票を得て、第一党に躍り出た。不況で失業率が高まると、その恨みが外国人に集中する。それが現実だし、今まさにヨーロッパ中で起きている事態なのだ。