「優勝が絶望的になった夏場から、老川オーナーたちは、高橋監督の続投を明言してきました。一歩外に出ればマスコミも大挙していたので、経営陣と現場の円満な関係をアピールしておかなければなりません」(球界関係者)
同関係者によれば、ドラフト会議の話題を振ったのは、渡邉会長だったという。清宮幸太郎(早実=3年)の名前も出たが、高橋監督は、指名候補の選手名を何人か答えたそうだ。しかし、巨人はドラフト会場で大波瀾を巻き起こすかもしれない。
「清宮以外の1位指名を公言したのは広島だけ。地元・広陵高の中村奨成捕手の1位入札で行く、と。今年は社会人、大学生に好投手が多い。抽選で外れても即戦力投手が獲得できるので、いったん清宮の入札で冒険するか、競合抽選を避けて、別選手を一本釣りするかのどちらかでしょう」(在京球団スカウト)
巨人も清宮との事前面談に臨んでいる(同2日)。だが、「別選手の一本釣り」を行う可能性が出てきたのだ。
話は8月25日に逆上る。U-18世界大会を戦う代表チームが、国内合宿の一環で、千葉工業大学との練習試合を行っていた。その試合で、清宮は、新記録となる高校通算108号アーチを放った。12球団のスカウトは、ケタ外れに高く舞い上がるその放物線に改めてスケールの大きさを実感したが、巨人スカウトだけは違う感想を抱いたそうだ。
「この試合で2本のホームランを放ったのが、履正社の安田尚憲内野手(右投左打)です」(前出・同)
巨人スカウトは、その安田の一挙手一投足を見入り、「試合中における視野が広い選手」と評価した。そして、バッターボックスに向かう立ち居振る舞いなどを見て、「松井に似ている」と口にしたそうだ。
松井秀喜氏のことである。巨人からすれば、最大級の評価をしたことになる。
その後、巨人もU-18の開催地であるカナダに向かったが、「清宮よりも安田を見ていた」との証言も聞かれた。安田は、188センチの大型三塁手。彼も早くから注目されていた1位候補で、とくにお膝元の阪神では、チーフスカウトが異例の「清宮&安田担当」となり、比較しながらの最重要チェックを続けてきた。阪神は、清宮が進路表明した9月22日時点で、「清宮1位」を決めている。
巨人は、清宮指名を下りて、安田の一本釣りに切り換えたのではないだろうか。
「清宮、安田の両方にあてはまるのは、フォア・ザ・チームの姿勢、チームリーダーの務まるまとめ役だということ。どちらも将来性は十分ある。営業面なら、清宮。守備走塁の能力を兼ね備えているのは安田のほう」(前出・同)
安田の指名を決めたから、今季三塁を守ったベテランの村田修一を切ったのか?高橋監督は将来の大砲候補・岡本和真の三塁再転向を決めている。岡本も守備に難のある選手だ。そのせいだろうか。高橋監督は、秋季キャンプにおける岡本の育成について聞かれると、「一塁、左翼もやらせて…」と“曖昧な物言い”をしていた。
プロ野球解説者がこう続ける。
「打撃力の高い宇佐見真吾捕手に一塁の練習をさせるとも聞いています。守備力では小林誠司のほうが上。でも、宇佐見の打撃力は、控え捕手のままではもったいない。一塁の阿部慎之助の後継者という意味合いもあって、宇佐見に一塁手の練習もさせるようです」
「三塁=岡本、安田」、安田の指名に成功すれば、「一塁=宇佐見、岡本」。若手を育てるのであれば、ひとつのポジションに専念させるべきなのだが…。
今年のドラフト抽選のクジを引くのは高橋監督に決まったそうだ。安田に切り換えたとする話が本当ならば、高橋監督への配慮もあったのではないだろうか。ペナントレースで大敗して、クジにも外れたなんてことになれば、赤っ恥をかく。競合を覚悟して臨む金本阪神とは対照的だ。(一部敬称略)