2年前の東日本大震災の直後、東電は電力供給が切迫したことを理由に大掛かりな計画停電を行い、社会全体をパニックに陥れた。その直後、実際には電力に余裕があったことが暴露され、「ペテン師!」と批判されたのは記憶に新しい。
問題は今年の夏である。東電は4月末、今夏(7〜8月)の電力需給見通しを発表した。節電効果を踏まえ、平均気温並みと仮定すると電力消費量は5280万kW、2010年並みの猛暑だった場合は5450万kWと予想している。これに対し供給量は7月が5933万kW、8月が5813万kWを見込んでいる。
供給が需要を上回る見通しとあって、東電はホームページ上で「計画停電は『原則不実施』を継続させていただいております」と強調するのを忘れない。にもかかわらず、なぜ真夏の怪談が囁かれているのか。
背景にあるのは、原発の新規制基準が施行された7月8日、他の電力会社が原子力規制委員会に原発の再稼動を申請したのに対し、柏崎刈羽原発6、7号機の申請を目指してきた東電は、地元の新潟県などから「事前了解が必要だ」と反対され、当日の申請を断念したことだ。
審査には少なくとも半年はかかるとされ、たとえ合格のお墨付きを得た場合でも地元と協議する必要があり、ここで承認を得なければ再稼動にこぎ着けない。そのスタートラインに立てなかったばかりか、地元の了解を取り付けることさえ難しくなった東電が焦燥感に駆られているのは明らか。
そこに「悪魔が囁く下地がある」と東電ウオッチャーは指摘する。
「テレビが大きく報じたように、東電の廣瀬直己社長と新潟県の泉田裕彦知事の面会(7月5日)は物別れに終わった。東電が2日に地元の了解を得ずに審査申請を行うと表明したことに知事が猛反発している以上、今後の交渉は厳しくなる。これをどうクリアするか。そこで密かに囁かれているのが、世間の意表を突く計画停電シナリオです」
繰り返せば、東電は今夏「当面、安定供給を確保できる見通し」として、悪評渦巻いた2年前の計画停電の再現には「原則不実施」と表明している。が、これを発表した4月末の時点で、まだ知事との関係は今ほどギクシャクしていなかった。
一部には、参院選が終了するのを待って政府が泉田知事を説得するとの観測もあるが、「言い出したらガンとして聞き入れない」(関係者)とされる泉田知事のこと、説得役を仰せつかった政府関係者が手を焼く場面もありそうだ。