いまやFM局の経営は青息吐息。それなのになぜ買うのか、というわけだ。
木下工務店は、これまでも映画などの文化事業に力を入れており、テレ東とはフィギュアスケートのイベントで協力関係にあった。今回の動きは、FMラジオ局の経営を通じ、音楽分野を強化したいとしている。
一方、テレ東は「映像コンテンツに特化したいため売却に踏み切った」という。だが、実際はテレ東HD内でFM局経営は厄介なビジネスだったようだ。
エフエムインターウエイブは、'96年4月に開局した関東広域圏対象の外国語放送FM局。設立当初は、傘下にジャパンタイムスを保有する、プラスチック工業用ファスナーの製造大手ニフコが筆頭株主だった。
しかし、経営難から'09年2月にテレ東の子会社テレビ東京ブロードバンドに売却され、その後、テレ東の完全子会社になった。
「ほとんどが外国人向け番組なので、スポンサーもつきにくい。テレ東グループ内でも経営者が何人か変わった」(FMラジオ業界事情通)
木下工務店グループを率いる木下直哉社長は現在47歳と若く、福岡県苅田市出身。学生時代から映画好きで、とりわけマカロニウエスタンのファンだった。
地元の高校を卒業後、24歳で、東京・恵比寿にアパートやマンションの賃貸物件を扱うエムシーコーポレーションを設立し、ここが事業の出発点となった。
そして、経営難に陥っていた木下工務店を、借金減免などの措置をとったのち買収、発展させていったやり手である。
現在、社員数は約500名。介護の木下、木下工務店、ギャガコミュニケーションズ(映画配給、45%の株保有)、キノフィルムズ(映画出資)、カリエ(化粧品販売)などをグループに抱えている。
業績的には問題はないようで、プール資金もたっぷりあるという。
ただ、こんな声も聞かれる。
「したたかな木下オーナーは、映画界進出やFM業界参入を“メセナ活動(資金を提供して文化や芸術活動を支援する)”と銘打っている。でも、巧妙に社名を売る腹づもりとみる関係者は少なくない」(スポーツ紙文化部担当記者)
映画興行やラジオ局経営は、どこも手を出さなくなったビジネス。その快進撃をながめる業界関係者の表情は複雑だ。