業界団体の日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会が発表した11月の国内新車販売台数は、前年同月比0.4%減の39万3942台だった。エコカー補助金が終了した9月以来、これで3カ月連続の前年割れで、普通車などの登録車に限れば3.3%減(24万3974台)である。
好対照なのが軽自動車だ。これは所有権の登録が要らず、従って基本的に車庫証明書の必要もない総排気量660CC未満の「日本にしかない自動車規格」(関係者)で、こちらは4.6%増の14万9968台と、14カ月連続で増えた。とりわけホンダは約3.8倍の3万601台と急伸し、40.4%減の1万9549台まで落ち込んだ同社の登録車(主に普通車)を初めて上回った。結果、軽自動車の販売シェアでホンダは国内2位のスズキと同率の25.2%まで伸び、トップを独走してきたダイハツ工業(32.6%)を射程圏に捉えたのである。
ホンダ快走の理由は、昨年暮れに発売した『N BOX(エヌボックス)』と11月2日から投入した新型車『N-ONE(エヌワン)』が爆発的に売れているからだ。ライバルのダイハツは燃費性能の高い『ミライース』を投入、スズキも新型『ワゴンR』を投入するなど迎撃シフトを敷いているが、ホンダの勢いは止まらないのが実情だ。
鼻息荒い同社は先ごろ、2013年度の国内販売台数を今年度の見通しよりも16%上回る85万台に引き上げる計画を発表。新モデルをさらに投入し、軽の比率を全体の5割に引き上げるという。11月の瞬間風速では、軽が登録車を上回っているだけに、決して荒唐無稽なアドバルーンではなさそうだ。
それにしても昭和42年に初めて軽自動車を発売したとはいえ、長年にわたって赤字続きの軽をおろそかにしてきたホンダを“改心”させたのは何だったのか。
「背中を押したのは、急激な円高と金融危機だったのは間違いない。輸出戦略の見直しを迫られ、国内市場に目を向けざるを得なくなったのです。そこで、F1エンジンに関わったエンジニアなどのトップクラスを鈴鹿製作所に集め、国内で徐々に人気が上がってきた軽自動車での大勝負に打って出た。逆にいえば、体力でトヨタに見劣るホンダはそこまで追い込まれていたのです」(証券アナリスト)
この戦略、確かに現時点では功を奏したように見える。しかし、ホンダ・ウオッチャーは「これが吉と出るか凶と出るか、もう少し長い目で見ないとわからない」と冷ややかだ。
「軽自動車を今後の主戦場と位置づけ、優秀なエンジニアを次々と動員した結果、他の部門は人材不足に陥った。いくらホンダが誇る技術陣といっても、F1やミニバンなどのエンジン開発をリードしてきたトップクラスの人材は限られる。彼らが抜けた穴が他部門の開発力に影響しないわけがなく、これが世間の目に『魅力のない商品』と映れば、販売を直撃する恐れがあるのです」