安倍総理が米国から満額回答を得たと報じたメディアもあったが、そうではない。例外があるからTPPの参加交渉があるわけで、例外がありうることは、初めから明らかだった。
今回、安倍総理がオバマ大統領から引きだした本当の譲歩は、アベノミクスへの理解だ。金融緩和をすれば当然、円安ドル高になる。アメリカはドル安政策を進めてきたのだから、アベノミクスを面白く思わない。それを「支持する」という譲歩を引き出したのだ。当然、安倍総理は相応の代償を支払った。それが、TPPへの参加と普天間基地の辺野古への移設だ。
ただ、TPPに参加すれば、関税だけの問題でなく、日本の経済・社会システムを米国型に改造する必要が出てくる。ところが、安倍総理はその本質には踏み込まず、聖域なき関税撤廃ではないという一点張りで、TPP批判をすり抜けてしまった。TPP参加のツケは、今後長らく日本の首を絞め続けることになっていくだろう。
それだけ大きな代償を支払って得た金融緩和だが、どうやら安倍総理が獲得したのは、無制限の金融緩和ではなかったようだ。そのことを示唆しているのが、次期日銀総裁の人事だ。政府は黒田東彦アジア開銀総裁を日銀総裁に推薦するという。しかし、財務省出身の黒田氏では安倍総理の目指す2%の物価上昇は達成できない。その理由は二つある。一つは財政負担の拡大だ。現在の国債発行額は、新規発行国債と借換債を合計すると160兆円にも達する。物価上昇率が2%に達し、国債金利も2%上昇すると、国の金利負担は3兆2000億円も増えてしまうのだ。
もう一つの理由は、金融機関への悪影響だ。国債金利が上昇すると、低金利時代に発行された国債の価格が下落する。たとえば現在の1%金利の国債は、3%金利の国債が発行されるようになると、そのままでは売れなくなる。誰だって、金利の高い国債の方を欲しがるからだ。結局、金利の低い国債は安値で叩き売るしかなくなるのだが、その時、大量の国債を保有している銀行に大きな損失が出る。日銀が昨年10月に発表した「金融システムレポート」によると、国内金利が1%上昇したときに大手銀行は3.7兆円、地方銀行は3兆円、信用金庫は1.6兆円の評価損を抱えるという。銀行全体の評価損は8.3兆円だ。もし2%金利が上がったら、損失は16.6兆円に達する。とても銀行業界が吸収できる損失ではない。体力の弱い銀行がバタバタとつぶれていくだろう。
銀行業界は、財務省にとっても、日銀にとっても、大切な天下り先だ。その天下り先を次々に破綻させるほどの金融緩和を財務省出身者がするはずがないのだ。
もちろん黒田氏は名うての金融緩和派だから、総裁に就任すれば金融緩和に舵を切るだろう。しかし、それは夏までの期間限定になるのだと私は思う。とにかく夏まで景気を拡大させれば、参院選の勝利は間違いないからだ。