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到達可能な異界 「隠れ里」「マヨイガ」

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 皆さんは『隠れ里』という言葉を聞いたことがあるだろうか。山中に人知れずある村であり、気候は温暖であり、作物が豊かであり暮らし向きは裕福であり、争いや飢饉、流行病とは無縁の平和な暮らしが、何不自由なく生活出来るのだが、迷い込むともう二度と帰って来れないとか。一度迷い込み、再び入ろうとしても見つけることが出来ないと言われている『山中の異界』である。

 また、隠れ里に滞在している数日間が、外界では何年も経っていたという時間的なパラドックスも生じる場合がある。かの柳田國男が『遠野物語』で紹介したことにより、日本中で知られるようになった。

 この『隠れ里』の単体パターンが『マヨイガ=迷い家』である。東北や関東地方に多く伝わる奇談であり、 山奥深くに一軒だけぽつんと建っている。立派な屋敷なのだが、住民はおらず(都風な住民がいる場合もある)、庭には花が咲き乱れ、立派な牛や鶏もいる。不気味なことだが、まるでさっきまで人がいたみたいな雰囲気もある。座敷には上等な器が多数あり、その什器か家畜を持ち帰れば幸運が迷い込むというのだ。

 中には、山中の『マヨイガ(迷い家)』に行きながら、何も取って帰ってこなかった女に対し、わざわざ川を使って、幾ら穀物を量ってもまったく減らないお椀を流してよこしたという伝説もあるくらいである。

 それにしても、『隠れ里』や『マヨイガ(迷い家)』から盗んできた椀で穀物を量ると、何故穀物は尽きることがないのであろうか。話によっては、この椀により貧乏な者が金持ちになるとか、その椀を無くしてしまい再び没落するなど後日談も伝えられている。これらの事から推測すると、この椀と山の民との交易権ではないだろうか。その証拠と言ってはなんだが、『常世の国』や『ニライカナイ』などの異界がなかなか行けない場所にあるのに比べ、『隠れ里』や『マヨイガ(迷い家)』『ねずみ浄土』は我々人間のすぐ近くにある。一応人間が到達可能な場所に設定しているのは、それが山の民の残像であったからではないだろうか。

 これら『隠れ里』や『マヨイガ(迷い家)』のモデルになった場所が幾つかある。例えば、上越市の山中にある桑取という集落は、民俗学者の宮本常一が著書『秘境』(有紀書房、昭和36年)において、全国24か所の秘境の一つとして取りあげた場所なのだ。また、山形県と新潟県の県境、岩船郡朝日村(現・村上市)奥三面もモデルと言われている。

 このような深山の集落が成立した背景には、平家の落人がコミュニティを作り上げていった経過があると思える。事実、日本各地には『平家の隠れ里』と伝えられる集落が幾つか存在している。筆者の故郷である徳島県の祖谷は『平家の隠れ里』であることは歴史的事実であり、平家の赤旗も残されている。また、筆者が取材した湯西川温泉は承平の乱に破れた将門の一門が開き、源平合戦から難を逃れた平景定一族郎党が住み着き今に至ったとされており、日光市長以下200名の武者行列が先祖供養も兼ねて行われている。

 他にも、縄文時代の末裔の集落であるとか、蝦夷の末裔の集落であるとか、逐電した百姓が密かに作った集落であるとか、様々な説が唱えられている。『隠れ里』は、我々の最も身近に存在する異界であると言えよう。

(山口敏太郎)

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