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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 カジノ法案がもたらすもの

 国内のカジノ営業を合法化するカジノ法案の国会審議が、5月中にも始まるかもしれない。野党にも法案に賛成する声が多いため、一旦審議が始まれば、スピード成立する可能性が極めて高い。順調に行けば、東京オリンピックの開催前に、日本での“カジノ第一号”がオープンする見通しだ。
 法案に賛成する議員たちが声を揃えるのが、カジノがもたらす経済効果の大きさだ。実際、シンガポールで2010年に二つのカジノがオープンしたが、観光収入は、'09年の124億シンガポールドルから'13年の235億シンガポールドル(1兆8800億円)へと9割も増えている。観光収入が、GDPの5%を超える規模に拡大したのだ。だから、カジノが大きな経済効果を持つこと自体に疑問を狭む余地がないと言えるだろう。

 では、日本のどこにカジノができるのか。東京や沖縄を含めて複数の自治体が手を挙げているが、最有力候補は大阪だと思われる。松井一郎大阪府知事や橋下徹大阪市長が誘致に積極的だし、カジノを支える交通インフラやカジノ建設のための広大な敷地があるからだ。
 実は、カジノは単独で作られるのではない。ホテルや会議場、ショッピングモール、レジャー施設などと一緒にIR(統合型リゾート)として整備されるのだ。賭場だけを開設するのは、あまりに露骨なので、それを包み込むための隠れ蓑が必要になるからだ。IRには大きな土地が必要だが、その点、大阪湾には人工島『夢洲(ゆめしま)』があるため、まさにIR誘致の条件が揃っているのだ。
 実際、松井知事のところには、アメリカ・シカゴに拠点を置くラッシュ・ストリート・ゲーミング社のほか、海外のカジノ業者が続々と訪問して、進出をアピールしている。

 もちろんカジノには大きな問題がある。それは、競馬やパチンコと比べて射幸性が高いため、賭博中毒者や破産者が続出するのではないかという懸念だ。そのためシンガポールでは、居住者に対して1回100ドル=8000円の入場税を課している。ただ、それでも、入場者数の過半を居住者が占めていて、低所得層を中心にギャンブルで全財産を失うケースが後を絶たないといわれる。
 もう一つの問題は、誰がカジノの利益を得るのかという点だ。シンガポールはカジノに対して、消費税5%とカジノ税15%(プレミアム顧客は5%)を課しており、財政面での貢献は大きい。だが、賭博で一番儲かるのは胴元であるということは、世の常識だ。
 シンガポールの場合は、二つのカジノの営業権を落札したのはいずれも外資だった。例えば、マリナベイ統合リゾートは、米国のサンズ・ラスベガスが営業権を取得し、プロジェクトのファイナンスは米国のゴールドマンサックスが仕切った。結局、カジノの経営全体を俯瞰すると、ギャンブルに熱中した国民から巻き上げられたお金は、政府とハゲタカ外資に吸い取られる構図なのだ。

 賭博で全財産を失おうが、それはやった人間の自己責任だ。そうした新自由主義的考え方が正しいかどうかは別にしても、カジノによって格差が拡大することは間違いないだろう。バクチは必ず金持ちが勝つものだからだ。

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