それでも、全国に1万2149店舗(警察庁調べ)ものパチンコホールが存在する一大レジャー産業であることに変わりはない。警察の指導により、近年の機種ではギャンブル性が抑えられているとはいえ、10万円勝ち、20万円勝ちの夢を見ることは今でも可能だ。“一発大勝ち”を狙う若者から、時間つぶしの主婦、完全に趣味にしている年金生活者まで、その客層は実に幅広い。
しかし、今、変革の時を迎えつつある。一つはカジノ解禁気運が高まっていること。もう一つは、消費税率引き上げが現実味を帯びてきていることだ。
ともにホールの経営を左右する重要な事柄だが、客側にとっても大きな問題である。パチンコホールに対する負担増は、そのまま出玉の減少につながり、客は勝つことが難しくなってくるからだ。それも表面的には何も変わらず、その変化に気付かぬままに…。
「IR(統合型リゾート)推進法案、通称“カジノ法案”。これが通れば、日本にもついにカジノが登場することになります。パチンコ客がカジノに奪われるのではという論議もありますが、カジノは主に富裕層の外国人観光客を想定しており、庶民の遊び、大衆娯楽であるパチンコとはそもそも客層が違います。韓国のカジノでは地元人は入場できないし、シンガポールのカジノでは地元人は100シンガポールドル(約7500円)の入場料がかかります。しかもカジノが国内にできたとしても数カ所。1万2000店舗あるパチンコホールが警戒するほどの規模ではありません」(海外カジノに詳しいライター)
しかし、ホール側が恐れているのは、カジノがIR推進法という“合法”なものとして登場することだ。ご承知の通り、パチンコの出玉の換金は法律で禁じられている。出玉を獲得した客はホールで特殊な景品に交換してもらい、そのホールのそばに“偶然”存在する、その特殊な景品を買い取ってくれる店で現金化することができるだけである。
仮に換金の部分に目をつむったとしても、パチンコ機の不正改造は後を絶たず、パチンコ依存症といった社会的な問題もいまだ解決できていない。こうした状況下でカジノが登場すれば、パチンコへの風当たりが一層強くなることは容易に想像できる。
「カジノの監督官庁がどこになるかで、パチンコ業界の行く末も変わります。カジノ利権にありつきたい官公庁は、パチンコの監督官庁である警察庁は当然として、観光推進で国土交通省、経済活性化で経済産業省、ギャンブル依存症対策で厚生労働省、マネーロンダリング問題で金融庁など多く存在します。仮に警察庁が監督官庁となれば、同じ庁の下に、合法のカジノとグレーゾーンのパチンコがぶら下がり、整合性が取れなくなる。警察庁はパチンコ業界の健全化を今まで以上に指示すると見られ、パチンコホールの淘汰が始まるでしょう」(経済記者)
パチンコホールがカジノ以上に神経を尖らせているのは、来年4月にも引き上げられる予定の消費税率アップの問題だ。
現在、ホールでは貸玉料金の中に消費税額が含まれる内税方式を採用している。貸玉は1玉4円なので、客が支払う純粋な料金は3.81円、消費税額は0.19円だ。等価交換のホールならば、この1玉あたりの消費税額0.19円は、すべてホール側の負担ということになる。
貸玉料金を変えずにこのまま内税方式を取り続けると、消費税が8%に上がった場合0.30円、10%に上がった場合0.36円がホール負担となる。1玉あたりで考えるとわずかな金額だが、台売上平均2万円で設置台数400台のホールが1年間営業したとすると、5%→8%で約1500万円、8%→10%でさらに約1000万円の負担増になる。それだけの利益が吹っ飛んでしまうのだ。
「外税方式にした場合、25玉の貸し出しに対し100円プラス消費税になりますが、客側がそんなわずらわしいことを受け入れるとは思えません。内税方式のまま貸し玉を24玉、あるいは23玉に減らすというやり方も拒絶するでしょう。しかも全国のホールが同時にどちらかに移行しなければならない。ホール側が恐れるのは客を失うことですから、結果として、これまで通り消費税分を全額負担することになる可能性が高いですね」(パチンコライター)
そうなれば、ホールは当然、利益を確保するために出玉を抑えるという行為に出る。つまりパチンコの釘は閉められ、パチスロの設定は下げられ、知らぬ間に負ける可能性が高くなっていくのである。
「なかなか勝てないギャンブルなど、誰もやりませんよ。客が来なくなれば、来ている客から搾取しようとする。そうして、さらなる客離れが発生する。パチンコホールが“負のスパイラル”に突入することになります」(同)
かつて30兆円市場といわれたパチンコ業界が、史上最大のピンチを迎えようとしている。