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再稼働か再値上げか 踏み絵を迫る“東電一家”の狡猾

 公的管理下に置かれている東京電力。後ろ盾となっている政府、あるいはサポートする銀行団は、命運を共にする“家族”のようなものだ。そんな東電が、危うい綱渡りに踏み込もうとしている。

 同社は10月末に、28行からなる銀行団から融資を受けた770億円の借り換え期限を迎える。その期限を前に銀行団は、申し合わせたかのように融資継続を決定した。もはや「死に体」と化した東電にとっては朗報だが、もっとも、この綱渡りは二つの理由から十分想定できた。
 一つは福島第一原発の汚染水問題で、政府が470億円の血税投入を決めたこと。政府が東電との“心中”を決断した以上、銀行団には「安泰」と映る。二つ目は柏崎刈羽原発の再稼動問題で難敵だった新潟県知事が条件つきで折れ、やっと原子力規制委員会への安全審査の申請にこぎ着いたことだ。実は再稼動に向けた申請こそ、銀行が東電を支援する絶対条件だったのである。

 これで東電は、12月にも求める方針だった3000億円程度の新規融資にも道筋をつけることができる。しかし、原子力規制委員会の審査は活断層の有無も含め、慎重なものになるとみられており、どう転ぶかは予断を許さない。
 「東電は早ければ来年1月、遅くとも来年4月の再稼動をもくろんでいますが、このままメドが立たずにズルズルと時間が経過すればどうなるか。既に一部の銀行は『柏崎刈羽を再稼動できないならば電気料金を再値上げすべき』と突き上げており、銀行団だって決して一枚岩ではないのです」(金融情報筋)

 安全審査には半年程度の時間が掛かる。そのため、東電が希望を託した「来年1月再稼動」は到底望めない。下手すると、原子力規制委員会が福島原発事故の状況を踏まえて慎重に審査した揚げ句、再稼動を認めないケースもある。そんな事態を恐れるあまり、年末の土壇場になって東電との“無理心中”を回避する銀行が出てこないとも限らないのだ。
 「規制委員会は極めて独立性が高く、政府が介入すれば反発を招く。原発再稼動に向け、手はずを整えたい安倍政権だって“指揮権発動”は封印せざるを得ません」(政界関係者)

 ユーザーにとって許し難いのは、昨年9月に電気料金を値上げしたばかりの東電が、一部銀行のご機嫌を取るかのように再値上げを検討していることだ。
 同社は今年の夏、銀行団に対し二つの試算を示した。一つは来年1月に柏崎刈羽を再稼動すれば同年3月決算で340億円の経常利益を確保できるとしたこと。もうひとつは昨年同様、電気料金を8.5%程度再値上げすれば600億円の黒字を確保できる見込みと記したことである。
 要するに「再稼動」か「再値上げ」かで、東電は死線から脱出できる、だから銀行は全面的に協力してほしいと踏み絵を迫ったのだ。

 道理で銀行団が10月末の手形ジャンプならぬ借り換え融資に応じたわけである。そのデンで行くと年末融資の見通しは明るそうだが、前出の金融情報筋は冷ややかだ。
 「もし東電が再値上げをチラつかせて『だから原発再稼動が欠かせない』と開き直れば世間の猛反発を買う。ユーザーに負担を強いる前に自ら血を流すのが筋ですが、東電や銀行団にそんな考えなどありませんよ」

 日本航空が破綻した際は、株主責任を明確にすべく100%減資し、当時の株主は文字通り紙くずをつかんだ。東電がそこまで踏み切れない最大の理由は「老後の資産運用のため、当初から配当妙味で株主になった多くの個人投資家を敵に回したくない安倍政権と、ドロ船にもかかわらず何としても上場を維持したい東電の思惑が見事に一致した結果」と証券アナリストは斬って捨てる。

 実はもうひとつ、関係者が「甘すぎる」と口をそろえるのが、東電の延命に極めて物わかりがいい銀行に対する政府の対応だ。
 東電は既に4兆円を上回る借金がある。しかし銀行は東電向け債権を「正常先」に位置づけている。もし「要管理先」に落とせば20%の引当金を積み増しする必要があり、これだけで軽く8000億円が消える。まして100%減資して破綻させれば融資額がソックリ不良債権と化し、銀行を直撃する。だからこそ政府は東電に引導を渡せず、甘い対応しか取れないのだ。
 「東電には銀行や政府が簡単にはつぶせないとの自負がある。もし本当に破綻すれば他の電力会社にも波及し、経済活動の根幹が揺らぐためです。しかし再値上げを人質に『嫌ならば再稼動を認めろ』と迫るような荒っぽい手法が、どこまで国民の理解を得られるか疑問です」(前出・アナリスト)

 東電の命運を握る原子力規制委員会の審査結果から目が離せない。

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