「原発作業員になるには、何か資格が必要なのか?」
って聞かれた。
「資格は一切不要」
と答えると、ほかの連中まで不思議がっていたよ。
だが、採用前に2〜3時間の講習を受けなきゃならない。資格不要の単純作業の場合も同じ。雇う会社によって違うけど、Jヴィレッジ(楢葉町・広野町)が会場になることが多いようだ。
原発事故が起きなかったら、ブラジルへ出発する前、(W杯出場の)日本代表もこのJヴィレッジで合宿したはずだ。だけど、いまは事故処理の最前線基地。東京電力の福島復興本社もここにあるしね。
でも、東京オリンピック(2020年)の1年前までには営業再開にこぎつけ、オリンピック出場者の合宿所にしたいらしい。それが福島県の方針。しかし、このまま東電が居座って、営業再開できないようなら、オリンピックもサッカーの二の舞いになっちゃう。それだけはご免だね。
原発作業員の桜井正雄さん(仮名)は大のサッカー好き。残念ながらグループリーグで敗退することになったコロンビアとの最終戦は、夏風邪を理由に仕事を休んだという。
桜井さんによると、事前講習後、約30分の採用試験があり、すぐに採点結果が出るという。当然のことながら、試験問題は放射能がらみのものが多く、すべて直前に講習済み。
答えを100%教えるのが講習会だから、問題はいたって簡単だ。満点なら100%採用の見込み。50点以上100点以下もほぼ100%採用される。なぜなら、満点を取れるまで講習、試験を受けられるからだ。
50点以下はどうなるかというと、これも満点になるまで講習、試験を繰り返せる。だから、ほとんどが採用ってわけだ。
ところが、講習、試験を何度やっても、100人に1人か2人が不合格になっちゃう。落ちるヤツは、試験問題そのものが理解できない、つまり字が読めないってこと。口先だけは詐欺師並みに達者だが、しかし自分の名前を書くのがやっと、そんな手合いがいるんだ。
そんなヤツは不合格になって当然だ。だって、危険という字が読めず、それを安全と勘違いしてスイッチでも押されたら、巻き添え食うのは俺たちだから。
働き始めてビックリしたけど、原発作業員6000人の中には顔の浅黒い外国人が何人もいる。国籍はわからないが、日本語ペラペラ。試験を通っているから、日本語も読めるってこと。それなのに、日本語読めない日本人がいるんだから、情けない限りだ。
よくよく聞いてみると、採用試験で100点を取ったからといって即、採用が決まるわけではない。
年齢制限があり、18歳未満はどんなに体格がよくても就業経験があっても雇用できない。労働基準法第62条により、有害放射線の発散場所では労働させられないからだ。事故原発の敷地外でも同じで、除染作業に18歳未満を使って逮捕された雇い主がいる。年少者は安く使えるが、その代償は高くつく。仕事を回してもらえなくなるからだ。
採用試験に合格しても、採用決定に至らないケースはまだある。医者の診断書提出が義務づけられ、その内容次第で不合格になる。
精神病やアル中(アルコール依存症)、伝染病の人は、どんなに試験結果が良くてもはじかれてしまう。でも、アル中は大目に見られているのか、それっぽい作業員はいくらでもいる。
規定の被曝線量に達したら、作業員は解雇の運命。要するに使い捨てということ。一方で作業員を次々と補充せねばならないから、採用基準があまり厳しすぎると、作業員を確保できなくなっちゃう。