立石とも呼ばれた夫婦岩。この北東約700メートル沖合には、祭神・猿田彦大神ゆかりの「興玉神石(おきたましんせき)」が鎮まる。巨大な楕円形の平岩だったと伝わる神石は、江戸時代の地震で海中に没してしまい、今はほとんど見られない。その遥拝所として始まったのが二見興玉神社。夫婦岩に大注連縄が張られるのは岩門、つまりは鳥居とするためだという。
一方で二見浦一帯は、伊勢の神宮への垢離場(ごりば)としての信仰も集めてきた。神仏に参拝する前には、水を浴びて心身を清めるのが本来。伊勢参宮に際しては、清き渚こと二見浦で禊を済ませるのが慣わしだった。とはいえ、実際に海中に浸かっての禊はなかなかに困難。今では二見興玉神社に参拝し、「無垢塩草(むくしおくさ)」による祓いを受けるのが一般的となっている。
この無垢鹽草を興玉神石から採取するのが藻刈神事。宮司以下神職らが舟に乗り込み、長尺のかまを使って神石から“藻”を刈るというものだ。沖合の行事なので、浜辺から遠くの様子を見守るしかできないが、夫婦岩の向こうで、紅白の舟が五色の旗をなびかせる様はとても神秘的。ここに打ち寄せる波が、常世の国と繋がるという伝説が思わず浮かぶ光景だった。
4〜8月にかけては、夫婦岩の間から日の出を拝することができる。彼方の霊峰・富士の背から昇るという朝日を、一度は拝みたいものだ。
(写真「採取前に海中にお神酒を捧げる神職ら」)
神社ライター 宮家美樹