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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 勝ち組だけの景気回復

 6月30日に国家公務員に夏のボーナスが支給された。管理職を除く一般職の平均支給額は58万6700円で、昨夏より12.1%増と大幅にアップ。東日本大震災の復興財源を確保するため、国家公務員の賞与は9.8%カットされてきたが、その特例が3月末で終了したことと、賞与算定の基礎となる公務員給与が上がったことが、空前の賞与増に結び付いた。
 一方、民間企業も、日本経団連が5月29日に発表した夏季賞与・一時金の妥結状況によると、平均が88万9046円と、前年比8.8%増という高い伸びになっている。実は、この伸びはバブル期を上回る最大の伸びだ。
 こうした数字だけをみていると、景気は順調に拡大しているようにみえる。しかし、経団連の賞与の調査は、原則として東証一部上場で、従業員500人以上の大企業だけを調査対象としている。中小企業は入っていないのだ。私は、中小企業の賞与はほとんど伸びないとみている。すでに月給ベースでは、その兆候が表れているからだ。

 厚生労働省が発表した「毎月勤労統計」で、5月分の「きまって支給する給与」は、5人以上の事業所規模全体で、前年同月比0.5%増にとどまった。しかし、事業所規模を30人以上に限定すると、伸び率は0.9%に高まる。
 また、一般労働者は0.6%伸びているのに、パートタイム労働者は0.0%だ。これらの数字から推測されることは、大企業の正社員の給与は大きく伸びているのに、中小企業やパートの給与は伸びていないという格差拡大の事態だ。

 大企業の正社員と国家公務員は、労働市場のほんの一部だから、経済全体を引き上げる力はない。総務省の「家計調査」をみると、景気の状況は非常に深刻であることがわかる。勤労者世帯の実収入は、5月の前年同月比で名目0.4%、実質で4.6%と、5%近い落ち込みになっている。
 もっとすごいのが、2人以上世帯(自営業世帯を含む全体)の消費支出だ。5月の消費支出の前年比は、名目で3.1%、実質でみると8.0%もの落ち込みになっているのだ。この落ち込みは、前回1997年に消費税が引き上げられた時ときよりも、大きくなっている。
 つまり、いまの日本経済で起きていることは、大企業の従業員や国家公務員が大きく潤う一方で、庶民や中小企業は景気回復の恩恵を一切受けないどころか、大きく所得を減らし、それが消費の冷え込みを通じて経済全体を失速させているということなのだ。

 しかも、これだけの消費急減を受けながら、政府や日銀が景気対策に出ようとする気配がまったくない。駆け込み需要の反動で消費が落ち込むのは仕方がないと考えているのか、それとも、明るい部分だけをPRすることで国民の気分を盛り上げようとしているのか、どちらかだろう。
 もしかすると、大企業と国家公務員だけがよくなれば、庶民がどうなろうと知ったことではないと、格差拡大を容認している可能性もある。

 '97年の消費税引き上げ後、日本経済は15年にわたるデフレに陥った。今回は、それ以上に消費が落ち込んでいるという事態を政府や日銀が直視しないと、景気対策が間に合わなくなるだろう。

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