しかし、安倍首相は口が裂けても「民主党よくやった」とは言えないから、組織の“看板替え”くらいしかやることがないのだ。
新組織のメンバーを見て、ある民主党関係者は「総理は年金記録問題への幕引きを図るつもりではないか」と言った。その理由の一つとして、社会保険労務士の廣瀬幸一氏がメンバーから外れた人選を挙げた。廣瀬氏は、回復委員会時代に、主婦の年金への不公平な救済に1人で反対を貫いた人物だ。
主婦年金問題とは、50万人近い専業主婦が必要な届け出をせず、保険料を払っていなかったことが発覚した問題。当時の長妻大臣は保険料を払っていない期間も「払っていた」と見なす救済策に出た。これに対し廣瀬氏が「まじめに保険料を払った人と比べて不公平だ」と反対した。野党だった自民党も、この問題で政権を追及していた。
ところが、安倍政権が発足した新組織の委員9人のうち5人は横滑りで、いずれも不公平な救済を容認した人たちである。本来なら廣瀬氏に同調して民主を追い詰めた自民は、真っ先に廣瀬氏を再任すべきだったが、そうしなかった。前出の民主党関係者によれば、「政府の方針に盾突くようなタイプを選ぶと後々うるさいから」だそうだ。
廣瀬氏は一連の年金問題について次のように語る。
「結局のところ、年金記録問題は制度の欠陥です。大企業の正社員や公務員等にとって、今の制度は正常に機能するものの、中小零細企業や転職の多い人、低所得者にとっては問題が多い。その不安が現実のダメージとなる事例は、今後も消えないでしょう」
5月に行われた社会保障制度改革国民会議の会合では、年金の支給開始年齢を67〜68歳に引き上げることで、有識者委員の意見が一致した。にもかかわらず、現自公政権は『年金100年安心プラン』を今も主張し続けており、根本的に欠陥だらけの年金制度を維持しようとしているのだ。
60歳から支給されてきた年金は、財政状況が厳しいことから、すでに65歳に引き上げることが決まっている。そして、公的年金の積立金は厚労省の財政計画をはるかに上回るスピードで取り崩されており、100年安心どころか10年安心も危うい状況だ。
今年度はアベノミクスで株価が上がり、積立金の運用益が10兆円程増える見込みというが、取り崩しの額は年に約6兆円といわれているので、完全に焼け石に水である。
安倍首相は5月10日の衆院本会議で「社会保障と税の一体改革は、年金制度の抜本改革を前提としない」と答弁している。繰り返せば、6年前に「皆さんの年金を正しくきっちりとお支払いする」と語った張本人である。
たった数年でのこの変貌。このままズルズルと支給年齢が引き上げられ「70歳からでヨロシク!」となるのは確実だ。