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“王国”復活なるか 造船業界に吹き荒れる再編の嵐

 かつて世界一の建造量を誇った日本の造船業界が苦境に陥り、大手造船企業が統合再編の動きを加速させている。その余波は、海運業にまで及んでいるが、背景には何があるのか。
 造船関係者が明かす。
 「ズバリ、世界的な大不況が造船業を直撃しているからです。造船は戦後、ずっと世界一の技術力と質を誇り、世界に君臨し続けた。それが中国など新興国が低コストで攻勢をかけ、さらには、それらの国々が急激に景気低迷に陥り、市場が悪化するというダブルパンチ。'16年1〜8月の日本の造船受注量も、前年同期の8割減にまで落ちてしまった」

 一時は中国のバブル景気に引っ張られる形で、各国の海運会社や投資ファンドが穀物などを運ぶ貨物船、いわゆるばら積み船を大量発注した。ところが、景気に急ブレーキがかかり、船がダブつく始末。
 海運業者がそんな状態であれば、造船業者も大波を食らうのは必定。象徴的な出来事が、今年10月に三菱重工業・宮永俊一社長が記者会見で発表した、大型客船造りからの事実上の撤退宣言だ。
 「今、日本で10万トン超大型客船を造れるのは、三菱重工だけ。その撤退は日本の造船技術に黄信号が灯ったということです。つまり経営最優先でいくと、日本のモノづくりの基礎をじっくりやる余裕もなくなっているということ。事は深刻ですよ」(同)

 三菱重工に何が起きたのか。2000年代に入ると、低コストを武器に貨物造船分野において破竹の勢いで台頭した中国・韓国勢に勝ち目がないため、あえてその分野から撤退した。その代わりに仕掛けたのが、大型客船受注。利幅の大きい船で差別化を図ろうとしたのだ。
 その結果、受注したのは世界的大型客船観光で実績を上げる、米カーニバル社の系列会社でドイツのアイーダ社発注の豪華客船『アイーダ・プリマ』(12万5000トン・3300人乗り・1500室)。さらに類似のものをもう一艘、計2船の総額1000億円という大型受注で、三菱重工は小躍りした。

 一番船は'15年3月、二番船は今年3月に引き渡し予定だった。
 「しかし、発注側の要求は極めて高度なものだったようで、何度も設計変更を迫られた。結果、納期が1年以上も遅れ、一番船を引き渡したのは今年3月。その間、今年1月には造船中だった一番船が3度も火災を起こすなど、トラブルが続出して大混乱となったのです」(造船関係者)

 そのような状態となった理由を、全国紙社会部記者が言う。
 「昔は三菱重工内で専門の技術者を育て、建造してきた。その蓄積が、世界一の造船国をもたらしたのです。ところが最近は、重工でも造船分野は全体のわずか5%の売り上げで、大きなうま味がない。火力発電用タービン事業や、将来の収益の柱と期待される航空機事業などに集中したことから、造船では人も育たず、現場は世界中から集まった臨時スタッフばかりになって劣化してしまった。コストカットのしわ寄せは下請けにも及び、不満が鬱積している。3度の火災も、現場に不満を持つ者の放火と疑われたほどです」

 造船業界は国内外ともに厳しく、乗り切るための再編が急ピッチで進む。三菱重工業は大型客船の造船中止などと併せ、来春をメドに国内中堅造船業者3社との提携に向け、具体的な協議を始めた。相手は、建造量で国内トップの今治造船(愛媛)、同3位大島造船所(長崎)、同4位の名村造船所(大阪)。いずれも、ばら積み船建造が得意で、ゆくゆくは統合という見方も濃厚だ。
 他の造船会社も動く。川崎重工だ。同社は'16年4〜9月期連結決算で、7年ぶりに3億円の赤字。円高と船舶海洋事業の不採算案件が響いたのだとか。そのため、不振続きの船舶海洋事業の存続か廃止かを含めた抜本的検討を始めたという。

 そうした中、ひとり気を吐くのが、JMU(ジャパンマリンユナイテッド)だ。石川島播磨重工、日立造船、IHI、住友重機械工業の流れを汲み、'13年1月にいち早く合併した造船専業メーカー。広島県呉など全国7カ所に造船所を展開し、年間建造量は国内2位だ。
 「JMUでは、造船所ごとに建造船種を絞り込み、得意船種を建造する体制作りに取り組んでいる。例えば呉事業所は大型コンテナ船、有明事業所は大型タンカーなどといった具合です。そのためか、日本郵船から大型コンテナ船を15隻受注するなど'18年末まで次々と受注建造を活発化させている。さらに防衛省・海上自衛隊向けの艦艇建造部門でも、三菱重工が独占してきたイージス艦を受注するなど、まさに破竹の勢いです」(造船関係者)

 どの日の丸造船会社が生き残るのか。

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