もともと前回の衆院選を終えてから、橋下氏は維新がみんなの党を取り込んで、新党『みんなの維新』を立ち上げる考えだった。ところが、この合意を取り付けていた相手が悪かった。
「みんなの党側で協議の窓口になったのは、江田憲司幹事長でした。ところが、江田氏と渡辺喜美代表の不仲が、予想より根深いことが誤算になったのです。ブレーンの共通している党同士が一緒になるわけですから、どちらの党が相手を吸収するかは問題にならないはずでした。しかし渡辺代表は、独断専行が目立つ江田氏への対抗心から、あくまでみんなの党が維新を取り込むという形にこだわった。その結果、江田氏も橋下氏との合意を反故にせざるを得なくなり、従来通りの連携すら難しくなってしまったのです」(みんなの党関係者)
腹の虫が収まらない渡辺氏は、維新側に怒りの矛先を向け、批判のボルテージを上げた。それは時に、子供じみた嫌がらせに発展した。1月下旬の夜、議員宿舎で複数の政治部記者の取材に応じた際のことだ。無言で携帯電話を取り出し、留守番電話に録音された“ある声”を聞かせた。
《渡辺代表、お疲れさまです…》
軽妙に語り出したのは、橋下氏だった。
《マスコミを通じていろいろと報道されておりますが、代表の党大会での発言などが厳しくなっております。我々は、表で批判はしておりません。このままでは組織が持ちません。私も組織を預かるトップとして一言、言わせていただきます》
橋下氏は一貫して低姿勢で、冷静に現状を分析していた。
《僕が『合流しよう』というのが気に食わないのであれば止めますが、みんなの得票率をみても、これは今後の選挙でバッティングしないようにしないと意味がありません。旧たちあがれ(太陽の党)の人たちも、いろいろ思うところがあるわけですが、彼らも表立って批判したことはありません。よろしければ、公での批判を少しばかり控えていただけないかと思っております。合流することで…》
ここまで留守電を再生すると、渡辺氏は薄笑いを浮かべながら口を開いた。
「長げぇだろ。まだ続くぜ。愚痴だよコレ。悪いけど無視だよ。『結婚しよう』と言われて『嫌だ』となっているのに、こんな留守電残したらストーカーだぜ」
トップ間のホットラインで対立の収束を目指した橋下氏を、渡辺氏は“犯罪者”として扱い、さらし者にしたのだ。陰湿な渡辺氏の様子は、数日後には橋下氏の耳に入った。
「もちろん烈火のごとく激怒していましたよ。『維新の人気に便乗して食いつないでいる三流政治家のくせに』とね(笑)。少し落ち着いてからは脱力感に襲われたようで、旧知のブレーンに『渡辺さんレベルにコケにされてるようでは、政界で生き残れない。正直言って政治にも少し飽きてきたし、ここら辺が潮時かも』と珍しく弱音を吐いたというのです」(橋下氏側近)
維新の内外で物笑いにされたのをきっかけに、橋下氏は満を持しての国政進出どころか、市長ポストを投げ出して政界から電撃引退するプランを思い描いているというのだ。