埼玉県東松山市の都幾川河川敷で8月23日、同県吉見町に住む井上翼さん(16)の遺体が、砂利に下半身が埋まり上半身裸の状態で発見された事件。殺人容疑で逮捕された少年5人のうちの1人は、警察にそう供述したという。
遺体発見2日後の25日に父親に付き添われ東松山署に出頭した16歳少年(無職=東松山市)は当初、「自分1人で暴行して殺した」と話していた。しかし翌日には、事件現場近くの交番に中学生と高校生が現れ、「友人が人を殺したようだ」と届け出たことで、中学3年男子(15=同)が逮捕。さらに16歳少年の供述や友人らの間で出回ったリンチ現場の動画などから、17歳少年(無職=同)と、その弟の中3男子(14)、15歳の中3男子(川越市)が逮捕された。
「司法解剖の結果、井上さんの死因は溺死。身体中に暴行でできたと思われる無数の皮下出血が見られる。少年らの携帯電話のGPSによる位置情報や押収した動画などから判断して、22日未明から1時間以上にわたり、井上さんは全裸にされて川を泳がされた上、暴行を受け続けたようです」(捜査関係者)
逮捕された5人のうち、年長の17歳と16歳の少年は、東松山市を根城にする不良グループに属していた。
「揃いの赤い服を着てたむろして行動する、いわゆるカラーギャング。構成メンバーは20人程度。よく東松山駅前で集会をしていましたよ。バイクで集団暴走する程度なら可愛いものですが、彼らは盗難バイクのナンバーを付け替え転売したり、家出少女を風俗店に紹介して礼金をもらうなど、金になるなら何でもするといった感じでした」(事情を知る関係者)
この関係者によれば、井上さんもメンバーからバイクを購入していたという。
「ただし、その支払いが遅れていたという話を聞いている。翼がメンバーの彼女に手を出したなんて話もあって、その辺の揉め事が今回の事件につながったんじゃないか」(同)
事件の経緯や背景を見ても、思い出されるのは昨年2月に神奈川県川崎市で中1男子が殺害され、18歳と17歳の少年3人が逮捕された事件だ。
この男子も、グループのリーダー格とされる少年の怒りを買い、川崎区の多摩川河川敷に呼び出された。しかも井上さん同様、全裸で泳がされた揚げ句に集団で暴行を受け、最後はナイフで首を斬りつけられ絶命したとされる。男子は事件発生の半年前頃からグループ連中と付き合うようになり、使い走りのようなことをやらされていた。
井上さんはなぜ、グループと関係を持つようになったのか。
井上さんは父母と兄、弟の5人暮らし。昨年春に地元の中学校を卒業後、隣接する鴻巣市内の定時制高校へ入学した。
高校時代の同級生はこう語る。
「入学当初はごく普通に通学していましたよ。中学から続けていたバスケットに打ち込み、一番声を出してチームを引っ張る姿が印象的だった。明るく人懐っこい性格で、11月の文化祭ではクラスの企画で仮装行列をして、積極的に参加もしていた。ところが、その直後に退学してしまったんです。何かあったとすればその頃だったのか…。昨年暮れに会った時は服装が派手になってまるで別人。コンビニでアルバイトしているとは言っていましたが、明らかに以前の井上君とは違っていたんです」
一方、不良グループにおいて17歳少年は、次期リーダー格的な存在だった。
「両親と弟2人の5人家族で、とにかく小学生のときから素行が悪かった。すごく短気で、いったん怒り出すと手がつけられない。(逮捕された)弟のほうも14歳だけどいっぱしのワル。ほとんど不良グループメンバーのような顔をして振る舞っていましたよ」(17歳少年を知る人物)
井上さんと17歳少年は以前から面識はあったが、最近まで行動を共にすることはなかった。
「ただ、井上さんは当時から17歳少年に万引きを命じられることがあったという。にもかかわらず、25日に逮捕された16歳少年と親しくなったことで、5人と行動を取るようになった。すると井上さんは金をせびられたり暴力も受け、その度合いも増していった。最終的に井上さんは5人と連絡を取らず避けていたようですが、なかなか踏ん切りがつかなかった。その理由には、井上さんが過去に起こした他グループとのトラブルも関係しているようです」(全国紙社会部記者)
川崎の事件で不良グループは、イスラム過激派のISになぞらえ「川崎国」と名乗り、中1男子がグループを抜けたい意思を伝えると暴行を加え、それがさらにエスカレートしていった。
未熟すぎる上下関係が、取り返しのつかない事態を招いたのか。