search
とじる
トップ > 社会 > 森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 国立競技場白紙撤回の意味

森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 国立競技場白紙撤回の意味

 7月16日、森喜朗東京五輪組織委員会会長と首相官邸で会談した安倍総理は、2520億円という高額な建設費に国民の批判が集まっていた国立競技場の建設計画を白紙に戻して、ゼロベースでやり直すと記者団に語った。
 安保関連法案の衆議院での強行採決で支持率が下がっているところに、さらに支持率を下げる要因を作りたくないというのが総理の本音だと言われている。それはそうだろう。しかし、今回の国立競技場のドタバタ劇には、さらに深刻な問題が潜んでいる。それは財政規律の喪失だ。

 もともと1300億円とされた国立競技場の建設費が膨らんだのは、キールアーチと呼ばれる2本の支柱が原因だと言われた。そのコストは900億円、1本で450億円に達する。私は、この見積りが滅茶苦茶だったのだと思う。例えば、広島カープのマツダスタジアムの建設費は90億円だ。アーチ1本でプロ野球の野球場が5つ作れる勘定だ。また、ユニバーサルスタジオのハリーポッターのゾーンの建設費も450億円と、アーチ1本分に過ぎない。
 私は建設の専門家ではないが、常識で考えて、こんなに高いことはあり得ない。それでは、何が起きていたのか。私は、設計会社と建設会社が、ドサクサまぎれにコストを積み込んだのだと思う。そうでなければ、ここまでの高価格になることはない。

 そもそも、今回の国立競技場の建設にあたって、国際コンペで争われたのはデザインだけだった。そのデザインに合わせて、日本の大手設計会社4社が合同で設計を行い、建設会社も大手2社が内定している。しかし、その手続きは、おかしくないだろうか。
 通常の公共事業であれば、コンセプトが示された後、入札によって一番安い価格をつけた建設業者が選ばれる。建設会社は、一度受注したら、その後に人件費や資材が高騰したからといって補償は得られない。それなのに、今回はあれよあれよと言う間に、建設費が2倍以上に膨れ上がってしまった。最初から仕掛け自体がおかしかったのだ。

 デザインの選定を行った建築家の安藤忠雄氏は、「自分自身もあまりのコスト高に驚いた」、「この際、建設会社に利益度外視の値下げをしてもらったらどうか」と会見で話した。私は、筋の通った話だと思う。コストを積み込んでいるのだとしたら、まともな価格に戻すだけで半額にできるはずだからだ。
 しかし、それは不可能な話だった。そんなことをしたら、たっぷり利益を忍び込ませていたことが国民にバレてしまう。だから、計画を白紙撤回して、「新しいデザインにしたのでコストが下がりました」と言う以外に打つ手がなかったのだろう。ある意味で一番割を食ったのは、国際コンペで勝利したイギリスの建築家、ザハ・ハディド氏だろう。建築費のまともな積算さえ行われていたら、東京オリンピックのシンボルとして、ずっと残されるはずだったからだ。

 白紙撤回し一からやり直すことになった計画は、今度は競争入札で業者を決めるという。しかし、当初案を大きく超える額になるのは確実だ。森会長が「2500億くらい出せないのか」と言うぐらい、財政規律が緩んでいるからだ。

社会→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

社会→

もっと見る→

注目タグ