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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 恩を仇で返す農協改革

 政府が来年の通常国会に提出する農協法改正案の内容が明らかになった。私が一番驚いたのは、全国農業協同組合中央会(JA全中)の事実上の廃止を打ち出したことだ。
 JA全中というのは、全国の地域農協を束ねるナショナルセンターだ。ちょうど、全国の労働組合を束ねる連合のような存在だ。ただ、連合と異なるのは、JA全中の場合は農協法に基づく法人で、地域農協の指導・監督の権限を法律で担保されていることだ。

 全中は、自民党政権をずっと支えてきた。戦後、GHQの指令で農地解放が行われ、日本からは大規模農家が消えた。小作農に田畑が分割譲渡されたからだ。共産主義運動が農民運動と一体となることが多いことからもわかるように、農家は基本的に平和主義・平等主義だ。ところが、日本が共産化しなかったのは、保守本流を自認する自民党とJA全中が蜜月関係を築いてきたからだ。
 自民党農林族が、積極的な農家保護策をJA全中と肩を組んで打ち出し、そして農家が選挙で自民党をしっかり支援するという仕組みが、自民党の長期政権を可能にしてきたのだ。
 その仕組みは、最近まで続いていた。例えば、今年2月20日にJA全中は、「TPP閣僚会合において国会決議を実現する緊急全国要請集会」を開いた。集会に出席した自民党石破幹事長(当時)は、重要5品目を守るとした国会決議に関して、「遊びや冗談で脱退も辞さずと書いたのではない」と、聖域を断固守る決意を表明した。

 ところが、その自民党政権がJA全中から地域農協への監督指導権を奪い、単なる公益法人に格下げする方針を打ち出したのだ。
 建前の上では、地域農協の自由度を上げて高付加価値農業への転換を推進するということになっているが、そんなことは言い訳に過ぎない。自民党の本当の狙いは、農家の切り捨てだ。
 昭和35年に600万戸を超えていた農家は、すでに250万戸に減っている。もう、農民は選挙の役に立たない。一昨年の総選挙でも、農林族の大物が次々に落選した。しかも、農林族の多くが平和主義・平等主義を掲げるリベラル派だ。TPPに反対するような足手まといは、さっさと切り捨ててしまおうという考え方が、JA全中の実質廃止を打ち出した背景なのだ。

 私は、恩を仇で返すような自民党のやり方が、好きではないが、一番気になることは、これが日本の農業が壊滅に向かうきっかけになるのではないかということだ。
 日本の零細農家の一番大きな特徴は、農業をビジネスとしてやっているのではないということだ。市場原理で考えれば、利益などまったくないのに、農業を続けているのは、それが道だからだ。だから、彼らはコストや手間がかかっても、安全でおいしい農産物を作ろうとする。
 例えばアメリカは、遺伝子組み換え作物の最大の生産国だし、ポストハーベストといって、収穫後の作物に害虫発生を防止するための農薬を散布したりする。そのほうが、利益が増えるからだ。
 農の世界に市場原理を持ち込むことで破壊されるのは、農家の生活だけでなく、我々の食の安全でもあるのだ。

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