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過去を消した女たち 第13回 リカ(48) 故郷の家族のためにヘルス嬢に身を落としたフィリピン人

 都内にあるファミレスで、フィリピン人女性のリカ(48歳)に話を聞いた。日本に暮らして30年になるという彼女は、現在、日本人の夫と、社会人になった息子の3人で暮らしている。

 フィリピンのミンダナオ島出身のリカは、現地の高校を卒業後、すぐに来日した。その背景には、フィリピンらしいといっては失礼かもしれないが、止むに止まれぬ家庭の事情があった。

「フィリピンパブで働くためだったんです。お父さんは船員をしていて、しっかりとした収入があったんですけど、お母さんがいい加減な人で、お父さんの仕送りを全部ギャンブルに使っちゃったんですよ。お父さんが船員をしている時は、まだ生活ができたんですけど、急に難聴になってしまって、仕事を辞めなければならなくなったんです。それで、6人兄弟で長女の私だけ親戚の家に預けられ、両親はマニラのスラムで暮らしていました。そんな生活を抜け出して、またみんなで暮らしたいなと思ったのが、日本に来た理由です」

 彼女が来日した1990年代、フィリピンパブの女性たちは、興行ビザを入手していた。ただ、そのビザで働く女性たちは、現地のプロモーター、日本人プロモーター、そして働く店で三重の搾取に遭い、ビザの期限の半年ほど働いても、手元に残るのは30万円ほどだったという。

「フィリピンに帰る時、空港でプロモーターから、まとめてお金を渡されるんです。封筒のお金を数えたら、何でこれだけなのと思ったけど、フィリピンに帰ったら日本以上に苦しい生活が待っていたので、また日本に行きたくなるんです」

 3度目の来日のとき、リカは客だった日本人男性と結婚する。

「建設現場で働いていたその人は、給料も良く、毎日のようにお店に来てました。年齢も近くて、この人ならいいかなって思ったんです。それと、興行ビザではなくて、結婚してビザが取れればもっとお金を稼げるなとも思いました」

 正確には、ビザではなく在留資格と呼ばれるものだ。日本人の配偶者を得られれば三重の搾取から抜け出せ、日本人ホステスと同等の収入を得られることができた。

 リカはその後、22歳の時に結婚し、翌年、男の子を出産。何の問題もない結婚生活を送っていたが、少しずつ歯車が狂い出した。

「仲間と飲み会だとか言って、夫の帰りがだんだん遅くなったんです。こっそり携帯を見てみたら、フィリピンパブの女とメールのやり取りをしていました。何度注意しても同じことを繰り返すので、こちらから離婚したいと言って、別れたんです」

 リカは離婚前から、フィリピンの家族に仕送りをするため、パブで働いていた。生活費は夫が支払っていたため、18万円ほどの月収の半分を送っていた。

 しかし、離婚後、子どもを引き取って2人で暮らし始めたが、養育費はもらえなかった。

「家賃を抑えるために都営住宅に引っ越して生活費を切り詰めましたが、お店で働くだけでは生活は厳しかったです。フィリピンにいる弟たちには、しっかり大学は出てもらいたかったので、仕送りのお金を削るわけにはいきませんでした」

 そこで、リカは店舗型ヘルスで働くことを決意する。

「今はもう、その店はなくなってしまいましたが、フィリピン人女性だけが働くヘルスがあったんです。働いている女性は私よりひと回以上も年上の人ばかりで、私はまだ20代だったのでお客さんがよくついたんです。1日に2万円ほど稼げました。それで何とか、仕送りもできて、経済的には安定していったんです。それでもきつかったですよ。見ず知らずの男に体を触られるんですからね…」

 月に20日は働く日々を4年ほど送ったが、経営難から店は潰れてしまう。彼女以外に若い女性はおらず、客が入らなくなったのだ。

 子どもだけでなく、フィリピンに送金するために働かなければならないリカは、フィリピンパブに戻った。

「ヘルスの給料の4分の1ほどになってしまいましたけど、仕方ないですよね」

 25歳で離婚し、30歳のときにヘルスが潰れ、それからはずっとフィリピンパブで働き続けた。生活が立ち行かず、生活保護を受けたことや、マンション経営をしている太い客を見つけては、金銭的な援助を受けたこともあった。

 ギリギリの生活を続けていたが、43歳のときに現在の夫と知り合った。

「前の夫と同じ現場仕事をしている人ですけど、私に子どもがいることも、仕送りしなければいけないことも理解してくれて、一緒に面倒を見るよと言ってくれたんです。それで再婚することにしました」

 現在の夫は、フィリピンパブで働いていたことは知っているが、風俗店で働いていたことは知らない。

「たぶんですけど、その事実を言っても理解してくれるとは思うんですが、黙っています。本当にやりたくなかった仕事ですからね」

 家族のため、風俗に身を落とし、生活保護を受けるなど、厳しい生活を強いられたこともあった。それが、現在は持ち直し、幸せな生活を送っている。日本人には家族のために生きるという考え方は理解しづらいかもしれない。私はリカの平穏な日々が続くことを願わずにいられなかった。

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