「北朝鮮の核・ミサイル開発をやめさせ、朝鮮半島の非核化を実現する確実なシナリオが二つあります。現在、原油は中国が年間50万トン余を輸出しているといわれ、ロシアも輸出を増やしています。非軍事的対応としては、この貿易を完全にストップすること。それを中国が実施しなければ、中国も北の共犯であることを国際社会の舞台で糾弾するのです。一方、軍事的対応としては、日本は米国と連携して、北への先制攻撃支援も視野に入れていることを内外に明らかにすべきです」(軍事アナリスト)
何しろ核実験報道を前に金正恩委員長は、「水爆弾頭化」(小型化)を誇示し、「電磁パルス」(EMP)攻撃に初めて言及して「核武力は完成した」とまで豪語しているのである。
「もしEMPが攻撃対象国の地上30〜400キロの高高度(高層大気圏内)で爆発すると、放出されたガンマ線が大気中の分子と衝突して強力な電磁波である電磁パルスを発生させ、交通制御や電子決済などあらゆるインフラを破壊し、世界は大混乱に陥ります」(同)
今振り返ると、8月29日に発射された『火星12』は「グアムをけん制する前奏曲となる」多弾頭実験だった可能性が高い。
「本来『火星12』の射程は4000〜5000キロ程度あり、平壌国際空港からグアムまでの距離は約3400キロですから、なぜ飛距離を2700キロに短縮し、3つに分離して太平洋に落下させたのか。当初は失敗とされましたが、この海域には障害物がないことと、単一ミサイルに複数の弾頭を搭載するMIRV=マーヴ(一つの弾道ミサイルに複数の弾頭を装備し、それぞれが違う目標に攻撃ができる弾頭搭載方式)を試した弾頭分離実験だった可能性が高い。自衛隊は同時大量発射やMIRV、ましてやEMPに、なす術がありません」(ミサイルに詳しい大学教授)
今回の『火星12』の軌道をそのまま5000キロまで伸ばすと平壌国際空港からはミッドウェー島北方500キロ付近の海域となり、7000キロまで伸ばすとハワイ諸島北方1000キロメートル付近の海域となる。
つまり、これは北朝鮮の対米本土攻撃のエスカレーション戦略の一環と捉えることができ、今後も北朝鮮がこの軌道を使用する可能性は十分にある。
太平洋上に落下する軌道で今後も『火星12』や『火星14』が発射された場合、日本への被害はゼロか、あるいはごく軽微だ。日本はMIRVを使うには近過ぎるから、日本にとっての現実的な脅威は、より射程の短い短距離ミサイルの『ノドン』ということになる。
「現状のミサイル防衛(MD)体制は、迎撃ミサイル『SM3』を搭載したイージス艦4隻と全国の17高射隊に配備された地対空誘導弾『PAC3』による二段構えですが、北朝鮮が同時に大量のミサイルを発射したら、すべてを迎撃することは困難です。北朝鮮は『火星12』の発射に当たって『恥ずべき韓国併合条約から107年にあたる29日に日本人を驚愕させる大胆な作戦を立てた』とも述べ、日本にも警告を発している。さらに『今後、太平洋を目標とする弾道ミサイル発射訓練を多く実施して、戦略兵器の戦力化を積極的に進めなければならない』と語ったことから、米朝のチキンレースを一度クールダウンさせる落としどころとして“日本攻撃”という切り札を使うことは十分にありえます」(前出・軍事アナリスト)
日本のMD体制には、技術以上に厄介な問題が横たわっている。
ノドンが日本に飛来した場合、論理的には自衛権を発動することは可能だ。しかし、これまで領海に進入してきた船舶や防空識別圏に進入してきた戦闘機などには対処してきたが、弾道ミサイルに関してはまだ規定がない。
「そもそも自衛隊は米第7艦隊の護衛訓練しかしていないのが実情です。加えて日本が防衛上必要とする兵器を、米国は持たせてくれません。領空侵犯機に対して『F15』がスクランブルを掛けますが、空対空ミサイルは積んでいないので、敵機が本気で攻撃の意思ありと判明すれば体当たりしかない。まあその前に撃墜されますがね。これが、『平和憲法』の元、一国平和主義に呪縛されてきた結果なのです」(国際ジャーナリスト)
Jアラートが早朝に鳴り響いた8月29日、衆議院第一議員会館、第二議員会館内で『安倍やめろ! 8・29緊急市民集会』が開かれた。スピーチでは、ミサイルを撃ってくる北朝鮮批判はおざなりにし、大半をミサイルを撃たせるようなことをしている安倍政権に批判が集中した。
「トランプ大統領もグアム方面に4発撃つと脅されたときは、『これまで見たことのない火力』と逆襲したが、日本を飛び越えた『火星12』には『様子を見よう』などと言い出しています。北朝鮮は、日本国内の安倍批判を見て取り『日本を撃つのはセーフ』と受け取ったに違いありません」(同)
ところで英国政府は8月31日、北朝鮮が29日に弾道ミサイルを発射したことに抗議するため駐北朝鮮大使を召還したと発表した。ちょうど訪日中だったメイ首相はこの日、安倍晋三首相と会談を行い、北朝鮮問題で連携することで一致している。
「英国は北朝鮮の鉱物資源、特にマグネサイトに食指を伸ばすオリンド社やアミネックス精油会社が朝鮮との油田開発を共同で行っているし、ロンドンの金融監督庁監督下にあるアングロ・ジノ・キャピタル投資会社などが『朝鮮開発投資ファンド』を設立し、資金募集に乗り出すなど北朝鮮の内情には詳しい。英秘密情報部の持つ北朝鮮情報は貴重です。先の米韓合同軍事演習で、米国に対して正恩委員長が恐れるB1爆撃機の派遣を断るような韓国はアテにせず、対北朝鮮で『新日英同盟』を結んだということでしょう」(同)
対イラン防衛から世界で最も進んだミサイル防衛システムを構築しているイスラエルは、Jアラートのようなサイレンが鳴ると、市民は直ちに物陰に身を隠して頭を抱えて地面に伏せるという。
「イスラエルでは警報が鳴ってからロケット弾などが飛んでくるまで、たった数十秒の場合もあります。Jアラートのことを聞いたイスラエル人の反応は『日本は3分も避難時間があるの?』でした。ミサイル着弾の際には、爆風で瓦礫などがすさまじい勢いで飛散します。戸外にいる場合、物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守るというのは、割と現実的な身の守り方なのです」(中東情勢に詳しい大学教授)
北朝鮮は9月9日の建国記念日から10月10日の朝鮮労働党創建記念日の間に、再び中距離弾道ミサイル『火星12』の発射、大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星14』や潜水艦発射ミサイル(SLBM)の試射、さらには7回目の核実験にさえ踏み切るとみられている。“レッドライン”は、もはや完全に超えたと言っていい。
金正恩委員長は、中国が秋の党大会を終えた後、トランプ大統領からの大きなプレゼントを受け取ることになるかもしれない。