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小口配達増と人手不足加速 ネット通販に泣かされる宅配業界の受難

 「年末年始などは、早朝から夜9時過ぎまで働いても配達しきれない。寝る時間も削ってボロボロでした」
 こう悲鳴を上げるのは、大手宅配業スタッフだ。

 宅配業界が人手不足と取扱い荷物量の急増で悲鳴を上げている。最大の理由は、ネット通販の急増だという。
 「'15年度の宅配便の個数は37億4493万個と、それまでの5年間で15%増、10年間で27%増と約8億個増えた。特にネット通販=EC市場は、経済産業省によると'10年に7.7兆円だったのが'15年には13.8兆円まで膨らんでいる。これが荷物量の急増につながり、加えてどこの業界でも加速している人手不足が重なっているのです」(経済誌記者)

 宅配業界三傑といえば、トップが黒猫でお馴染みのヤマト運輸、2位は飛脚マークの佐川急便、3位はゆうパックなどで知られる日本郵便だ。シェアは直近の'15年データでヤマトが45.6%、佐川が33.6%、日本郵便が13.6%で、この3社が業界をほぼ独占している。荷物量が増加しているのであれば儲けも多くなり、給料も高くすれば人手も集まるはずなのだが…。
 しかし、運輸業界アナリストがこう否定する。
 「年初、最大宅配業界のヤマトの株価が大幅安になった。理由は'16年4〜12月期の連結営業利益が560億円前後と、前年同期より1割ほど減る予測が流れたためです。取り扱う荷物の個数は増加しても、ネット通販は基本、客に“配送無料”を目指す業者が多いため、宅配業界に大口取扱いでの値下げ交渉を強める。さらにネット通販は小口配達が多く、ガソリン代と配達時間は変わらないために配達単価を押し下げる。これにより'00年初頭には1個の平均の配達運賃が700円〜1000円だったのが、今では500〜600円になってしまった。特にEC業界最大手でアメリカに本部を持つアマゾンの日本法人・アマゾンジャパンは、量も取扱額も断トツな上に小口のものも多いので、どうしても宅配業者サイドにシワ寄せがくるのです」

 ヤマトの'15年度の宅急便取り扱い総数は17億3126万件。アマゾンジャパンの配達開始から3年で、約2億4000万件(約16.4%)伸びた。それでも営業利益が伸びない受難の時代が続いているのだ。
 宅配関係者が言う。
 「宅配便スタッフ不足に追い打ちをかけているのは、再配達です。昼は働く人が多く不在が多いので、夜に電話をかけ再配達する割合は2割に達する。宅配は夜9時までが配達時間だが、年末年始は早朝から9時を過ぎても配達を続けざるを得ない状態。セールスドライバーにインセンティブはつくが、1個数十円単位。1日1000円前後で寝る時間も削られる」

 国交省が概算を出したところによると、2割の再配達率を年間の労働力に例えると、約9万人分になるという。
 こうした状況に佐川急便は、不採算を理由に'13年にアマゾンとの取引を中止し、ECとは一定の距離を置く大胆な策を打った。それにより配達単価は3年連続で改善。しかし一方では、アマゾン切りで取扱い量はヤマトと日本郵便が5〜6%増えたのに対し0.2%と横ばいで全体のパイが上がらないまま。しかも佐川は、慢性的な人手不足は変わらない状況が続いている。

 事態を重く見た政府は、一つに何度も再配達をすることでのCO2の排出を抑える、物流に支障が出そうなほどの人手不足の解消の2点を重んじ、再配達の軽減のため、一定のスペースに再配達ボックスを全国500カ所に設置。その補助金を半額拠出する方針を固めたという。
 「この再配達ボックスは昨年5月、すでにヤマト運輸がフランスのネオポストグループと合弁会社を設立し、宅配ロッカー『PUDO』の事業をスタートさせている。現在、JRや東京メトロ、私鉄の駅中心に約40カ所に設置されており、'22年度には5000台を目指して拡大する予定です。日本郵便も宅配ロッカー『はこぽす』を拡大中で、『PUDO』などはヤマト以外の宅配業者も利用できるシステムになっています」(同)

 しかし、その宅配ボックス設置策が定着するかは疑問視されている。
 「過剰サービスに慣れた利用者が、宅配ボックスに足が向くかどうかです。今後アマゾンは、生鮮食料品の宅配にも乗り出すという。となると、ヤマトなどはこれ以上対応できなくなり、佐川同様、アマゾン切りをせざるを得なくなる。そのためアマゾンも、ドローンなどで自社配送の動きを見せている。車の自動運転も実用化が間近で、個人向けの宅配業は衰退へと向かうことも予測される」(同)

 そんな中、ヤマト運輸などは宅配サービスだけでない“高齢者の買い物”といった新ビジネスも模索する。荒波の末に、新時代がやって来そうな気配だ。

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