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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第45回 国家的自殺

 '13年9月16日、台風18号が本州に上陸し、全国の複数の地域で「かつて観測したことがないレベル」の雨を降らせつつ、東北から北海道へと抜けていった。京都の桂川などが氾濫し、各地で水害、土砂災害が発生し、群馬、栃木、埼玉、三重の4県では突風が「竜巻」と化し、荒れ狂った。
 我が国は国土が細長い弓型で、中央に脊梁山脈が走っている。そのため、川の上流から河口までの距離が極めて短い。
 さらに、台風の通り道に位置しており、雨季(梅雨)もある。豪雨が降ると、川の全域が豪雨域に入ってしまい、瞬く間に水位が上がる。

 また、今さら書くまでもなく、我が国は世界屈指の震災大国でもある。日本国の国土面積は、世界のわずかに0.25%に過ぎない。日本列島の面積は、世界の地表面積の1%にも達していないのだ。
 それにもかかわらず、世界で発生するマグニチュード6以上の大地震の2割は、この地で発生する。
 理由は、日本列島が「ユーラシアプレート」「北アメリカプレート」「太平洋プレート」そして「フィリピン海プレート」という、四つの大陸プレートが交差する真上に位置しているためだ。そのため、我々の祖先は常に「震災」と向き合いながら、生きていくことを余儀なくされてきた。

 震災や水害、土砂災害に限らない。我が国では豪雪地帯に存在する大都市が複数あり、ときには火山も噴火する。台風や震災に限らず、強風により交通機関がストップしてしまう事態にも頻繁に直面する。日本とは、政府がそれなりの規模の公共投資により、防潮堤や堤防などの防災インフラを整備しなければ、国民の生命や安全に危険が及ぶ国なのだ。
 それなのに、我が国は公共投資(一般政府の公的固定資本形成)の規模を、対'96年比で半分に減らしてしまった。また、公共投資がGDPに占める割合も、フランスと同程度に低下した。
 フランスは固い岩盤上に国土が存在し、アルプスの一部の地域を除くと地震が発生しない。さらに、台風も来ない上に、河川は広大な平野を「ゆったり」と流れて行く。水害や土砂災害も発生しない。
 そのフランスと、日本の公共投資対GDP比率が並んでしまった。
 現在の日本の公共投資の水準は、もはや国家的自殺と言っても過言ではないのである。

 しかも、公共事業や公共投資が、何らかの科学的裏付けに基づき削減されてきたのであればともかく、現実の「公共事業削減論」の根拠となったのは、単なるイデオロギーだ。
 「公共事業は政治家の懐を肥やすだけだ」
 「公共事業は土建屋を儲けさせるだけだ」
 「またムダな箱モノや鹿しか通らない道路を造るのか」
 この手のレッテル貼り、感情論や印象論に基づき、日本国内で「公共事業悪玉論」というイデオロギーが成長してしまった。結果的に、日本国内では、
 「国民の安全を守り、経済を成長させるために公共事業が必要だ」
 と、当たり前の言説さえ政治家が口にできなくなり、挙句の果てに「コンクリートから人へ」なるファンタジーを叫ぶ政党が政権を握ってしまった。

 コンクリートから人へとは、極めておぞましい考え方だ。コンクリートとは、公共投資を意味する。そして、公共投資とは、現在の国民のためはもちろん「将来世代の国民の生命や安全を守り、所得を増やす」ことをも目的として実施されるのだ。
 我々、現在に生きる日本国民が、この日本という国で比較的安全に、豊かに暮らすことができるのは、過去の国民がインフラ整備に投資をしてくれたおかげなのである。すなわち、公共投資とは「将来のため」にこそ行われるのだ(公共投資に限らず、投資とは全て「将来」のために実施される)。
 それに対し、コンクリートから人への「人」は、ずばり社会保障である。
 公共投資を減らし、社会保障を増やすことこそが「コンクリートから人へ」なのだ。
 公共投資が将来のために実施されるのに対し、社会保障は「現在の国民」を潤す。
 年金、生活保護、子ども手当など、全てそうだ。すなわち、コンクリートから人へとは「将来世代のことなどどうでもいい。今の自分にカネを寄越せ」という思想なのである。

 日本国民は、7年後の東京五輪開催に向け「築土構木(土木の語源)」や建設サービスに対する尊敬の念を取り戻さなければならない。
 台風18号が各地で多大な被害をもたらしたとき、真っ先に現場に駆けつけ、被災者の救助のために尽力してくれたのは、地元の土建企業である。世界屈指の自然災害大国である我が国では、土建企業の供給能力とは、まさに「国民の安全保障」と直結する問題なのである。
 政府や自治体に「予算」があったとしても、地元を知る土建企業が存在しなければ、自然災害の猛威に抗するすべはなく、国民の生命や安全に危険が及ぶ。日本とは「そういう国」なのだ。

 日本国民は、早急に自国の国土的条件に基づき、土建企業に対する尊敬の念を取り戻さなければならない。
 いざというとき、自分たちの生命や安全を守ってくれるのが「誰なのか」を理解しさえすれば、さして難しくはないはずだ。

 そして、今後の大手メディアで展開される公共事業批判論、土建批判論に対し、真っ向から反発する必要がある。
 朝日新聞などが「土建国家復活か!」などと印象操作の報道をしてきた際に、「国民の生命と安全を守るために、土建国家復活だ!」と堂々と返せる「空気」にならなければ、東京五輪を成功裏に終わらせることは不可能だろう。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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