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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 これでも第三の矢を支持か

 アベノミクスを語るとき、いま多くのエコノミストがこんな話をする。「財政金融政策を好転させたのは景気の先行きに対する期待だけで、実体経済をよくするためには第三の矢である成長戦略が重要だ」。こうしたセリフを聞いたら、そのエコノミストは間違いなく体制側の代弁者だと判断すべきだ。そもそも、成長戦略に経済を成長させる効果などないからだ。

 成長戦略が狙っているのは分配構造の変化、すなわち更なる弱肉強食社会を作ることだ。たとえば産業競争力会議は、解雇規制の緩和を打ち出した。会社が従業員を解雇したあと裁判所が不当解雇と判断し、職場復帰を命じたとしても、会社は解決金を支払えば解雇が有効になるという制度だ。手切れ金さえ払えばいつでも解雇OKというこの規制緩和は、政府の成長戦略に盛り込まれることはなかった。しかしそれは、あまりの世論の反発に参議院選挙への悪影響を恐れた政府が、とりあえず引っ込めただけのこと。その証拠に、すでに同じ理念の政策が再び打ち出されている。

 政府の規制改革会議が6月5日の答申の中で、一定の勤務地や職種で働く「限定正社員」の制度を来年度中に導入するよう要請したのだ。限定正社員というのは、勤務地や仕事内容などが限定された形で働く正社員で、すでにスーパーなどの業種で導入されている。
 規制改革会議は、パートタイマーを正社員化するための手段として限定正社員を位置づけているが、もちろんそれは詭弁だ。会議は、限定正社員の解雇を通常の正社員より容易にするよう求めているからだ。もしこの制度が導入されると、採用の中心が限定正社員に移り、正社員と比べて賃金が低いだけでなく、クビも切られやすい不安定雇用層が大幅に増えていくことになるだろう。

 さらに政府が5月28日にまとめた成長戦略の工程表には、労働市場の弱肉強食化の手段が満載になっている。まず、今年度中の改正を目指す労働者派遣法の規制緩和だ。現在は、専門26業務を除いて最長3年に限定している派遣労働者の受け入れ期間の規制を撤廃しようというのだ。そのため、今後は派遣はずっと派遣の立場のままになる。
 また、これも今年度中の実施を目指しているのが、外国人労働者の受け入れ拡大だ。高度な専門技術を持つ外国人は、これまでの5年ではなく、3年で永住権が取れるようにするという。こうした動きは、日本人のサラリーマンをグローバル競争にさらすことにつながる。上司に楯突けば、「外国人に代えるぞ」と言われてしまう時代になるのだ。

 さらに、工程表は再来年度までに労働移動支援助成金の額が、雇用調整助成金の額を上回るようにするとした。このことは重大な意味を持つ。
 これまで日本政府は不況が来たときに、企業が従業員をクビにしないように求めてきた。その代わりに雇用調整助成金で、企業の雇用維持のためのコストの一部を負担してきたのだ。ところが、今後は方針を転換する。クビにしたい企業はどんどんクビにして下さい、クビにされた労働者の転職を政府が支援しましょうというのだ。しかし、中高年の転職は容易ではない。
 結局、転職を経て賃金が大幅に下がる。これが成長戦略のもたらす事態なのだ。

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