ホテル業界に詳しいコンサルタントがこう話す。
「東京五輪決定で新規ホテル建設の波が押し寄せ始めているが、実はホテル業界は10年ほど前から外資系ホテルの建設ラッシュが続き、過当競争にさらされてきた。そのため、どのホテルでも経費削減が至上命題となり、最も経費が削減しやすい食材偽装がまかり通るようになったのです」
このコンサルタントによると、特に東京、大阪の建設ラッシュは凄まじかったという。ザッと並べてみると、『フォーシーズンホテル丸の内東京』が'02年に開業。翌年には『グランドハイアット東京』、'05年には『コンラッド東京』と『マンダリンオリエンタル東京』が開業し、また、'07年には『ザ・リッツカールトン東京』、『ザ・ペニンシュラホテル』、'09年に『シャングリラホテル』などが次々と建設された。この状況は大阪でも同じで、長らく業界は飽和状態だったのだ。
「これに加え、1泊6000円程度のビジネスホテル群が過当競争に加わった。さらに東日本大震災が起き、もはやホテル業界は豪奢な内装とは似ても似つかない経営状況に追い込まれた。背に腹を代えられない状況で行われ出した食材偽造が、ホテルの欺瞞で加速化していったのです」(同)
もっとも、こうした実態は、食材費の切り詰めに限ったことではないという。最近では経費削減が従業員らの勤務状況にも波及。ブラック企業と見紛うばかりの業務を、強要するホテルも出始めているのである。
某中堅ホテルマン(33)がこう明かす。
「ここ数年、サービス残業が月に30時間前後と以前と比べものにならないほど増えている。人減らしをしたため、場合によっては朝の6時から夜の9時まで1日15時間労働という日もあるほど。年俸は300万円といったところ。酷いホテルになると、月収10万そこそこでコキ使うところもあるという。20代で年収200万円程度もザラなのです」
また、今回の偽装騒動で脚光を浴びることとなったレストランの調理場も悲惨な状況のようだ。
「とにかく、人手が足りなくて殺気立っている。もたもたしていると、野菜や玉ねぎが飛んでくるし、包丁片手に鬼の形相をした先輩から『辞めちまえ!』『なんでそんなに遅いんだ!』と怒鳴られるまくる始末。若いうちは事務系よりも薄給で、幹部クラス以外はとにかく人の入れ替わりも激しい。そんな状態だから、腕に自信のある若い料理人ほど辞めてしまう。食材偽装に納得できず、上と大ゲンカの末に辞めた者も1人や2人ではないのです」
ちなみに、最近、厚生労働省が発表した新卒後3年以内に離職した業種ランキングでは、ホテル業界は50%超えの離職率。これは外食産業と並ぶトップクラスだが、大きな要因となっているのは休暇が取れないことなのだ。
「ご存じの通り、ホテル業界はゴールデンウイークや夏休み、年末年始が書入れ時。世間と同じ時期に休みが取れないが、これが原因で独身者が急増しているのです。職場結婚もあるが内部事情を知っている女子は、薄給で休暇もままならないホテルマンとの結婚を敬遠する。だから近年は独身者のホテルマン、ホテルウーマンが激増しているのです」(ホテル関係者)
食材偽装に、離職率の上昇−−客と従業員にソッポを向かれ始めたホテル業界は、今後大きな試練に見舞われそうだ。