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福島原発「作業員6000人」の現実[前編] ジャーナリスト・水石徹 現役作業員が内部告発! 「美味しんぼ」ではわからない監視、密告、人間不信の敷地内(3)

 心配させるのが嫌だから、女房にもまだ言っていないけど、俺には鼻血なんかより深刻な問題があるんだ。原発で働き始めてから、体じゅうのあちこちが赤くなって痒くなり、尾てい骨のところに吹き出物ができて困っている。
 作業中、そこが急に痒くなるので作業服の上からゴシゴシ掻くと、とたんにチンポがむずむずして小便が漏れそうになる。上下ツナギの服だから、その場で立ち小便というわけにはいかない。急ぎトイレに駆け込もうにも、そこまで車で10分近くかかるから我慢するにも限界がある。結局、タレ流しのまま作業を続けるということもあるのさ。

 皮膚科に診断してもらったら、「ダニに噛まれたか、ヘルペス(帯状疱疹)かもしれない」と言われ、塗り薬を処方してもらったんだが、半年経っても尾てい骨の痒みは消えない。この2〜3カ月は、そこに瘡蓋ができて、それをカリカリ掻いてはがすと瘡蓋がまたできる−−の繰り返しだ。
 つい最近、塗り薬をもらいに行ったとき、医者に仕事の内容を打ち明けると、「危なっかしい場所で働いているんだな。ひょっとしたら放射能の影響かもしれんな」と言われ、ゾッとしたよ。ピンセントではぎ取った瘡蓋を精密検査に回している最中だが、結果が出るまでは気が気じゃない。結果が出たって、『美味しんぼ』の鼻血と同じで、放射能との関係はわからないんじゃないか。

 爆発を起こした建屋の内部、特に原子炉に近い地下部分は放射能が高く、当然、防御服を着用せねばならない。しかし、建屋周辺で働く作業員の服装は驚くほどの軽装だ。
 冬はともかく、この時期は下着を着ても着なくてもいいが、白い上下のツナギ服だけで作業する。化繊(化学繊維)の薄っぺらな服でウィンナースーツと呼ばれ、触った感じは紙と間違うくらいだ。胸の左右に30センチ四方の窓があって、内側に放射線量計などを入れる。この部分だけ外から見えるようビニールでできている。ただし、この服では放射能から身を守ることはできない。当然、放射能に汚染されているから、1日で使い捨てにするし、敷地外に持ち出すことはご法度だ。

 今回は、俺たちがどんな軽装で働いているか知ってもらうために、袖を通していないものを必死の思いで持ち出してきた。後でまたこっそり返却するつもりだ。
 最初は、こんな軽装では危ないんじゃないかとビビッていたが、1カ月も過ぎると、自分がバカじゃないかと思うくらい気にしなくなってしまう。慣れるというのは、ホント、危険だよ。

 背中に昇り龍の刺青ある30代の男が仕事終わって着替えの最中、
 「男の子ばかりだから女の子がほしいんだ」
 と言ったら、両腕にこれまた刺青ある年配の男から、
 「子供なんかつくれるわけないだろ。ただの子供じゃなくて手足がなかったら、これ以上の後悔はないだろ。親が死んでも子供はずっと苦しみ続けるんだ。国や東電が保証してくれるわけじゃないんだぞ!」
 と、たしなめられていたね。先にも言った通り、沈黙と密告の世界だから、こんな会話が耳に飛び込んでくると、無性にホッとするんだ。この刺青男2人を原発に送り出している会社の社長は、ある地域で名の知れたヤクザだからね。いまは足を洗っているのかどうか知らないけど、そっち系統の作業員はいくらでもいる。世間が知らされていないだけで、これが事故原発の現実なんだ。(以下次号)

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