原発作業員の被曝線量は、限度が労働安全衛生法で「年間50ミリシーベルト、または5年間で100ミリシーベルトまで」と定められている。健康への悪影響を考慮してのことだ。
俺が所属する孫請けは、それよりちょっと少な目で年間40、5年間で80と決まっている。元請けの大手ゼネコンの自主基準に従っているようだ。他のゼネコンもだいたい同じだね。
1年契約で年間40以内の被曝なら、同じ会社で契約更新できる。ところが40オーバーだと、1年契約だから、いまの会社を辞めねばならない。
ただし、別の会社に移ってまた、ゼロから始めることはできる。これを毎年繰り返し、“被曝渡り鳥”になって敷地内を飛び回っている作業員がいる。
5年契約だと、年間40以内なら最後まで働ける。しかし、その前に基準線量80ミリシーベルトになったら、原発作業員としてはお払い箱だ。
どんなに働きたくても、原発では働けない体になっちまったら、雇ってくれるところなんか、ありゃしない。目一杯被曝させて使い捨てにする。だから、人殺しでも強姦魔でも次々と調達せにゃならんのさ。
作業員は全員がいくつも線量計を携帯する。そのブザーが1回鳴ると、被曝線量は200マイクロシーベルト。できるだけ被曝させまいとする会社は、2回鳴ったら、その日の作業は中止させる。だが、3回鳴ろうと4回鳴なろうと知らんフリして作業を続けさせる会社がある。休憩室で一服やっていると、その会社の作業員がやって来て、とにかく怒るんだ。
「ひどすぎる! 俺たちを何だと思っていやがる! いざとなったら、ブッ殺してから辞めてやる」
ってね。でも、上司の前では黙り込んでいる。仕打ちが怖いからだ。上司の機嫌を損ねると、「あいつはやる気がない。まともに仕事もできない」と勝手に決めつけられ、わざと放射能が高いところに配置される。
当然、被曝線量が上がるから、その数値が他の作業員よりも早く基準値に届いてしまう。結局、お払い箱にされる。危険で汚い放射能と同じく、クビに追い込む手口も汚いんだ。
問題になった「最後は金目でしょ」発言の石原(伸晃環境相)は、俺たちが働いている福島第一原発を「第一サティアン」とテレビで言って大問題になったことがある。
まあ、オウム真理教ほど悪質じゃないが、石原の言うことがまんざら的外れとも言えないんだ。暴力沙汰はないものの、目に見えない放射能で被曝させるから、“見えないリンチ”って言われる。こりゃ始末が悪い。
そして、こんなこともある。採用の際、
「放射能が特別低いところに配置するから安心しろ」
と言われ、いざ働き始めたら、それとはまったく逆で、放射能が特別高いところに配置されるケースが後を絶たない。「話が違うじゃないか!」と、いくらわめいたところで、どうにもならない。被曝線量が基準値に届いたら、「ハイ、サヨナラ」で終わりだ。
(以下次号)