日銀経済学とは次のようなものだ。
量的金融緩和によってデフレ脱却をすることはできない。デフレ脱却というのは、景気回復で需要が拡大し、需給がタイトになって物価が上がることだから、実体経済の改善なしにデフレ脱却はありえない。無理に資金供給を増やしても、資金需要がない以上、資金が日銀当座預金に積み上がるだけで何の意味もない。むしろ、大量の資金供給は、通貨の信認を低下させ、通貨の暴落、そしてハイパーインフレに結びついて、経済を破たんさせてしまう。
金融緩和は、財政出動と並んで景気対策の両輪というのが世界の常識だ、それを否定する経済理論は、もちろん日銀オリジナルだ。
この日銀経済理論に挑戦をしたのが、アベノミクスによる金融緩和だった。効果は絶大だった。たった半年で株価は5割以上高くなり、輸出が大幅に拡大し、4〜6月期の決算では輸出関連企業を中心に好決算が続出した。そして消費者物価もプラスに転じたのだ。もちろん、為替の暴落もハイパーインフレもなかった。
日銀経済学の打破という安倍総理の最初の目的は達成された。しかし、安倍総理の前には、もうひとつの壁が立ちはだかっている。それが財務省経済学の壁だ。
財務省経済学の内容はこうだ。国が世界最大の債務を抱える中で、消費税を引き上げていかないと、国の財政に対する国際的信認が失墜し、国債の暴落、金利負担増によって、日本の財政が破たんしてしまう。
しかし、この経済学には致命的欠陥がある。それは、日本の財政が本当に深刻なら、なぜいまの時点で国債価格が下落しないのかということだ。日本の国債金利は世界最低の水準にある。つまり、世界一高い値段で買われているのが日本国債なのだ。それが消費税増税をしなければ、なぜすぐに暴落の憂き目にあうのか。
まだ、おかしなことはある。政府は法人税減税を断行するという。減税をすれば税収が落ちるはずだが、なぜ法人税減税は国債暴落を引き起こさないのか。
日銀経済学は、金融を緩和したくないという日銀の欲求で経済学を歪めたものであり、財務省経済学は消費税増税をしたいという財務省の欲求で経済学を歪めたものなのだ。
安倍総理の経済参謀である浜田宏一イェール大学名誉教授は、消費税引き上げの先送りを進言している。せっかく立ち直りかけた経済に増税の冷や水をかけたら、元も子もなくなってしまうからだ。
通常の経済学でシミュレーションした結果によれば、デフレ脱却期の増税は百害あって一利なしだ。安倍総理が通常の経済学を採用するのか、それとも財務省経済学を採用するのか。私は財務省経済学が勝つ確率が高いと思っている。それは、日銀官僚以上に財務官僚の立ち回り方が上手いからだ。もし予定通り消費税増税となれば、景気の拡大は来年春までの短い命になりそうだ。