米大手情報企業トムソン・ロイターが12月初めにエコノミストなどを対象に実施したアンケートによると、2014年の年末には株高・円安が一段と進むとの予想が多かった。とりわけ日頃から超強気で鳴る東京・兜町の証券マンをニンマリさせたのは、日経平均株価が1万8000円の高値をつけるとの予想が最も多かったことだ。
もし、この大台をクリアすれば、'07年7月以来となる。為替についても、12月に1ドル=110円との予想が最も多い。ここまで円安が進むとすれば、こちらも'08年8月以来だ。
要するに多少の曲折はあるにせよ、日本は向こう1年間にわたって景気回復を実感できるとのありがたい御託宣なのである。
みずほ証券の予想もそれを後押しする。世界の景気回復への楽観的な見方から1月に日経平均は上昇し、2月には4月に実施する消費税5%から8%への引き上げをにらんで一進一退するものの、3月には日銀の予防的な金融緩和があれば「ポジティブ・サプライズ」になるとまで踏み込んでいる。結果、消費税引き上げに伴う国内総生産(GDP)のマイナス成長は4〜6月に留まり、7月以降は順調な回復基調に乗るとし、日経平均は6月末で1万6500円、12月末で1万7000円程度と予想している。
野村證券も3月末で1万6000円、消費増税の影響を受ける6月末で1万5000円、年末で1万8000円と予想。多少の変動はあるにせよ、国内外の証券会社はおおむね「年央で多少落ち込むが、年末で1万7000円〜1万8000円」で一致しているのだ。
しかし、往々にして予想は覆るもの。みずほ証券が影響を小さく見込む4月の消費増税にしても、大和総研の試算によると、年収500万円の夫婦と子供2人の標準世帯では前年比6万7000円の負担増になる。まだベースアップに消極的な企業が多数を占める中、重税感は一気に高まることが予想される。
'15年10月には消費税が10%に跳ね上がるとあってはなおさら。低所得者に配慮して生活必需品などの税率を下げる軽減税率は、自民党と公明党の綱引きの結果「10%時に導入する」との曖昧な表現で“手打ち”し、これまた国民の重税感をあおりたてる。
たとえ株価が上昇に転じたところで大多数の国民が景気回復を実感できなければ、アベノミクスは失速。高い支持率を誇っているかに見える安倍政権の足元は、バブルさながらに極めて危ういのである。
リスクは海外にもある。株価予測に当たって証券会社は全くリスクを織り込んでいないが、ここへ来て風雲急を告げてきたのが中国と北朝鮮だ。もし尖閣諸島をめぐって日中間で軍事衝突が起きれば、株価大暴落は必至だろう。
「軍事アナリストが予想するように軍事力では日本が圧倒する。だから一気に蹴散らすでしょうが、もし自衛隊から複数の戦死者が出れば国民性からいって大パニックになる。それを承知の中国軍は1人だけでも血祭りに上げようとシャカリキになる。そうなったら巨大メディアが率先して『反戦』を唱える。中国の思うツボで、アベノミクスや株高など吹っ飛んでしまいます」(大手証券マン)
北朝鮮と韓国の間にも緊張が高まってきた。もし両国が軍事衝突すれば、日本に流れ弾が飛ぶだけでなく、米国や中国が軍事介入する恐れさえある。当然ながら株価は大暴落。これまたアベノミクスには全く想定外のシナリオだ。
中国や北朝鮮との危ういリスクだけに目を奪われてはいけない。安倍政権にしても「実態は時限爆弾を抱え込んでいるようなものだ」と永田町ウオッチャーは打ち明ける。
世論の猛反対を押し切って特定秘密保護法を強行させたばかりか、国内の原発推進が無理なら海外があるとばかり、原発輸出に前のめりになっているが、これを可能にしたのは国民の高い内閣支持率があってのことだ。しかし、その支持率が特定秘密保護法での強行突破を機に急落している。これで安倍政権が中国、北朝鮮の“有事”に直撃され、株価大暴落の非常事態に陥れば、もう支持率はゼロに近づく。
「衆参両院をガッチリ抑えたことで安倍政権には『数の力で何でもできる』という慢心がある。これでは世間の声に耳を貸すわけがなく、だから消費税の軽減税率だって上から目線になる。あまり調子に乗り過ぎると、裏目に出たときに痛い目に遭いますよ」(同・ウオッチャー)
2014年、国民をあらゆる想定外の事態におびえさせながらも、傍若無人の安倍政権は、どこまでも果てしなく突っ走ろうとしている。