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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 北方領土解決の好機

 この原稿の掲載号が発売される頃には、結果が出ているだろう。12月15日に安倍総理がロシアのプーチン大統領を地元山口に迎えて、首脳会談を行う。多くのメディアは“ゼロ回答”という悲観的な予想をしているが、私はこの会談で北方領土問題の歴史的進展があるだろうと予想している。その理由は、いまこそが、北方領土問題解決の絶好のチャンスだからだ。

 クリミア半島併合にともなう経済制裁だけではなく、原油価格の暴落で、ロシア経済は苦境に陥った。昨年のロシアの国家予算は、歳入の半分を原油売却収入が占めていた。しかし、一昨年の夏には1バーレル当たり100ドルを超えていた原油価格が、昨年末には30ドルに下がってしまった。
 その結果、ロシアの財政は大幅な赤字を抱え、経済も4%近いマイナス成長に転落。今年に入って原油価格は横ばいになったものの、経済制裁は続いているため、今年の経済成長率もマイナスになりそうだ。つまり、ロシアは喉から手が出るほど、日本の援助が欲しいのだ。
 領土を買うわけではないが、日本にとってこれは、絶好の環境と言える。しかも、OPECの減産合意で石油価格に上昇の気配がみられるため、来年はロシア経済が復活する可能性がある。つまり、チャンスはいまなのだ。

 もう一つ、安倍総理の立場からしても、今を逃す手はない。今年度の税収が、7年ぶりに前年を下回ることが確実になったからだ。
 安倍内閣の支持率が高い最大の要因は、アベノミクスで景気がよくなったからだが、税収減はアベノミクスに陰りが出てきたことを示している。しかも来年は、トランプ大統領の厳しい対日政策によって、日本の景気が一層悪化する可能性がある。そのため、安倍総理としても、支持率を大幅に引き上げる戦果が欲しい。それが北方領土なのではないか。

 領土交渉は利害が真っ向から対立するから、合意はなかなか難しい。しかし、私は歯舞、色丹に、国後も加えた3島を、ロシアが日本に引き渡す方向の合意を模索しているのではないかと思う。
 日本は、「北方四島は、日本固有の領土で、一度も放棄したことがない」と主張している。つまり、ロシアによる不法占拠が続いているという立場だ。一方、ロシアは終戦の日を8月15日ではなく、日本が降伏文書に署名した9月2日だとしている。だから、少なくとも択捉や国後については、完全に太平洋戦争の戦利品なのだ。

 外交交渉だから、どちらかの国が一方的に勝利するということはあり得ない。もし、歯舞、色丹、国後の3島が日本に引き渡されれば、安倍総理は4島中3島の引き渡しに成功したとして、歴史に名を刻める。一方で、ロシア側からすれば、面積ベースで北方領土の4割を引き渡しただけと主張することができるのだ。
 もちろん、その引き換えとして、日本から巨額の経済援助とロシアへの経済制裁解除という大きなお礼を渡すことになる。ただし、当然のことながら、経済制裁を解除すれば、これまでのアメリカだったら黙っていない。
 変人トランプが、どう判断するのか。それが北方領土のカギを握るのだ。

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