が、西武にとって深刻なのは、球団の金の卵・雄星を守るために取った大久保氏の追放処分だけでは、事件の全面解決にならないことだ。今回の事件に介在しているといわれる最年長投手・工藤公康の存在と、雄星自身の危うい現状があるからだ。
アーリーワークに遅刻した選手から罰金を徴収するようにしたのは、大久保氏の現役時代からの兄貴分、二軍暮らしをしていた工藤も一枚絡んでいるという。そのために、「デーブだけを処分するのはおかしい」と、工藤は球団側に訴えていたというのだ。フロント首脳とすれば、高校球界で騒がれ、プロ入りして大成功を収めた大先輩左腕・工藤は、雄星にとって生きたお手本として期待していただろう。雄星自身も「工藤さんの話はいろいろ参考になる」と慕っていたはずだ。
が、今回の「大久保氏解雇事件」で、工藤と雄星の関係が微妙になってくるのは避けられないだろう。今回の事件が発覚するタイミングで工藤が一軍昇格した裏には、現役時代に弟分だった渡辺監督の配慮が見え隠れする。
「工藤にまで処分が及ばないように、ナベQ(渡辺監督の愛称)が一軍に上げ、大事な戦力であることをフロント首脳にアピールする狙いがあったのではないか。それに二軍に置いておくと、雄星とのきまずい関係が生じたまま、おかしな雰囲気になるからね」
西武関係者はこう舞台裏を明かす。確かに、工藤の一軍緊急避難は、一石二鳥の効果が期待できる。
が、あくまで一時しのぎ策にしかならず、「雄星はこれから長くエースとして投げてもらわないといけない人材。大きく育てて欲しい」という後藤オーナーの至上命令がある以上、雄星育成が最優先されることになる。それだけに、工藤の去就には注目が集まる。
「選手とコーチを守るのは監督の仕事。守れなかったのは残念だ」
腹心の大久保氏解雇に渡辺監督は無念さを隠せなかった。工藤にまで責任問題が波及すれば、渡辺監督がどう出るか、予断は許さない。
また雄星本人への外部からの魔手も、今回の事件で表面化している。
「雄星のマネジメント権を狙う芸能プロダクションが接近して、六本木などに連れ回している」と西武OBがこう言うと、「いや、大手の広告代理店が引っ張り回していると聞いている」と言う球界関係者もいる。
日本ハム・ダルビッシュ有に代表されるように、球界にも芸能プロダクションが進出して、選手のマネジメントをする時代になっている。甲子園のスーパースター・雄星に触手を伸ばす芸能プロ、大手広告代理店が夜の街へ引き回す接待攻勢は、ウワサにとどまらず、事実だろうと容易に想像がつく。
西武フロント首脳は、内部だけでなく、外部からの魔手にも目を光らせないと、金の卵はふ化する前に、腐ってしまう。